【side ショーン】
次の目的地までの道を魔王リディアとともに歩く。地道に、自分の足で。
「リディアさん、直接ダンジョンに飛んで行きましょうよ」
「言ったであろう、これは旅じゃ」
今の俺たちの目的地はダンジョンではなく、ダンジョン近くの村だ。遠回りだが、ダンジョンからダンジョンへ移動したのでは旅が味気なくなるという、魔王リディアの持論のためだ。
「それに旅であるからには、ご当地飯を堪能しなくてはならぬ」
「旅にそんなルールは無いと思います」
「妾が作ったのじゃ。妾のルールは絶対じゃ!」
魔王リディアはぷんすかと怒りつつ、最初に出会ったときと同じ子どもの姿へと変身した。
今回は子どもから大人に変身した前回のときとは違い、サイズの合った服を着ての変身だ。
「子どもの姿に戻っちゃうんですね」
「妾はこの姿が一番プリティじゃからな」
魔王リディアがその場でくるくる回ると、フリル付きの可愛いスカートが風でふわふわと舞った。確かに可愛い。可愛い、が……。
「ショーンは、まだ妾に大きい姿でいて欲しかったのか?」
「いえ、別に……そんなことは、ない、です」
本当は、ちょっとそんなこともある。
大きい姿の魔王リディアは、芸術品のような整った顔立ちで、スタイルが良く、おまけにイイ香りもした。
……もちろんわざと嗅いだわけではなく、隣を歩いていたら偶然香ってきただけだが!
「それにしても、妾はショーンのことを見直したのじゃ」
俺が自分自身に言いわけをしていると、魔王リディアが俺の顔を見て微笑んでいた。まるで天使の微笑みだ。少女の姿も、それはそれでイイかもしれない。
ところで、俺は魔王リディアに見直されるようなことをしただろうか。苦も無く歩き続けることの出来る健脚を見直したとか? もしくは。
「ダンジョンでボスモンスターを倒したから、俺のことを見直してくれたんですか?」
「違うのじゃ」
違った。あと俺が見直されるような出来事は……。
「じゃあ追放されたのに、勇者パーティーのみんなを助けたからですか?」
「それでもないのじゃ」
これでもなかった。ということは……うーん?
「他に見直されるようなことをしましたっけ?」
「大人の姿の妾を絶賛したではないか」
魔王リディアはニマニマと嫌な笑い方をしながら、俺のことを人差し指で小突いた。
「フフン。ショーンの年齢で年上好きとは、なかなかに将来有望じゃ」
「リディアさんは俺のどこを見直してるんですか!?」
何かしらの能力や善行を見直されたのかと思ったのに、全然違った。
「芸術品のような顔立ちでスタイルが良くてイイ香りがして天使の微笑み、と追加の賞賛までくれるとは。ますます見直したぞ」
「あーっ! また勝手に俺の心を読んだんですね!? それ、やめてくださいよ!?」
「ケチなことを言うでない。知られて困るようなことをショーンが考えなければよいだけじゃろう」
「確かに……って、俺が気を付けるのはなんかおかしくないですか!?」
* * *