翌朝早くに村を出発し、村から少し離れた森の中を、魔王リディアとともに歩く。
村にはヘイリーを連れて戻ってくる予定だが、接待を受けた以上、万が一失敗した場合の罪悪感はものすごいものになるに違いない。流れでああなったとはいえ、風呂や食事をご馳走になるんじゃなかった、と俺は今更ながらに後悔していた。
「ここまで来れば、村人からは見えんはずじゃ。では、先にダンジョンへ行こうかのう」
「えっ!?」
俺が後悔をしていると、魔王リディアが恩知らずな提案をしてきた。
「さすがに今ダンジョンへ行くのは村人たちに悪いですよ。ただの旅人の俺たちに、あんなに良くしてくれたのに」
「彼らには、村娘を奪還してほしいという、彼らの思惑があった。タダで良くしたわけではあるまい」
「思惑があったとしても、恩を受けたからには早く返さないと」
俺がダンジョン行きを渋ると、魔王リディアは苦い顔をした。
「魔物の住処に突撃する前に、ショーンと話さなければならんことがある」
「……だからダンジョンを攻略しつつ、俺と話をするということですか?」
「そういうことじゃ」
さすがにダンジョンを舐めすぎではないだろうか。ダンジョンとは、生死を賭けた戦いの場のはずだ……魔王リディアにとっては、ダンジョンはその辺の洞窟と変わらないものなのかもしれないが。
「その通り。妾だけではなくショーンにとっても、ダンジョンは生死を賭けるような場所ではない。妾が手を出さんことをモンスターに明示しない限りは、な」
「すごすぎて涙が出ますね」
圧倒的強者すぎる。勇者パーティーが魔王リディアを倒すまで、何年……何十年かかるだろう。何十年でどうこう出来る実力差かどうかも怪しいが、それ以上かかると勇者側の身体が持たない。それとも一般人よりも優れた成長力を持つ勇者が一日も努力を欠かさなければ、魔王打倒は可能なのだろうか。
「理論上は、可能じゃな」
「可能なんですか!?」
「勇者が一日も努力を欠かさないことが出来るならのう。ワッハッハ」
じゃあ、ダメだ。あの勇者が毎日努力を続ける様子なんて想像も出来ない。
「そんなことよりも。早く動かんと日が暮れてしまう。今日はスケジュールがギッチギチじゃからのう」
「そうでしたね。それならさっさとダンジョンに行きましょうか」
俺が意見をしたところで魔王リディアが折れることはないと踏み、先にダンジョンへ行く案を飲むことにした。魔王リディアがいるのなら、ダンジョンでの呪いのアイテム探しもそれほど時間はかからないはずだ。
「今回は訳アリじゃ。ダンジョンまで歩くのはやめるかのう」
そう言った魔王リディアは、俺の腰をがっしりと掴んだ。
「うわあ!?」
「しっかりと妾に掴まっておるのじゃぞ」
小さな少女にしっかり掴まるというのは少し難しい注文だが、俺の腰を掴む魔王リディアの腕を、俺も強めに握った。この状態のまま魔王リディアが空を飛ぶつもりだと思ったからだ。
…………しかし。
「ダンジョンに到着じゃ」
俺たちは瞬く間にダンジョンの前にワープしていた。
「アイテム無しで自由に好きな場所までワープできるなんて、さすがにチート過ぎませんか?」
「妾は魔王じゃからな」
これから先も、チートな出来事はすべて「魔王じゃからな」の一言で片付けられてしまうのだろうか。俺は自分のユニークスキルのことをチートだと思っていたが、認識を改めなければならないのかもしれない。