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「──はあ、はあ……!」
俺は息も
どうして、こんな目にあったのかは俺にも分からない。
足がガクガクと震えて、思うように走れない。
肺も苦しくて酸素が足りず、呼吸がついていかない。
わき腹にも痛みが伝わり、肩で息をしている。
ただ一つだけ判明していることは、俺は一方的に狙われていて、さらに命さえも狙われていることだ。
「……くそ、どこに行きやがった」
「よりにもよって、兄ちゃんが不在の時に、あの会話を盗み聞きされるとはな」
「いや、まだ遠くには行ってないはずだ。何としても、
「了解」
背後からの気配が別々になる。
どうやら二人が左右になって、俺を追いつめるつもりのようだ。
俺はひたすら逃げるために、おぼつかない足取りで
◇◆◇◆
──その一時間前、俺はデレサがくれたゼリーにより、蝶から人間に戻り、また、この世界へ再び戻ってこれた。
どうやら今回の舞台は、月の光さえも届かない暗闇の森の中だったが、枝先を見上げれば、星のカーテンのような景色で満ちていた。
すると、どこからか空気の流れが変わったのか、辺りはよく見えない景色へとなり、深い霧に覆われ、周りの視界が
ここはどこだろうか?
俺は小石に足元を取られながらも、慎重に木々の間を抜けていく。
しばらくすると、霧の中から一軒の民家が見えてきた。
その家の窓にかけた厚手のカーテンの裾からは少しだが、光が漏れている。
良かった。
俺は無事に助かったんだ。
もう今夜は遅いし、これ以上の夜道の探索は危ない。
ここの家主に頼みこみ、今日は泊めてもらおう。
そう思考した俺が、家の扉の前にゆっくりと近づくと、何やら中年らしき男の声が耳に入ってくる。
「──その話、本当ですかい?」
「ああ、弥太郎の兄ちゃんに聞いたんだが、偶然にもほどがある。だったら殺すのも分かる気がする」
殺す……何、
俺は出来るだけ物音を立てずに、その話のする場所に行き、聞き耳を立てようとした。
しかし、その途中、光に集まっていた灰色の小動物の素早い移動に驚き、思わず声を上げてしまう。
「そこにいるのは誰だっ!」
はっと、気づいた時には遅かった。
家の灯りが消えて、真っ黒への世界に戻された後、俺は懐中電灯を持った、大きな二つの人影から挟み撃ちにされていた。
「いたぞ、アイツだ!」
向こうは俺を知っている?
やはり、さっきの会話からして弥太郎の知り合いか。
声といい、背丈といい、立派な大人の出で立ち。
恐らく、
まあ、考えていても始まらない。
今はヤツらから逃げて、何とか振りきらないと。
やれやれ、今回は最初からハードコースだな。
転生の場所を選べないのも困ったものだ……。
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──という事情で俺は、この森の中でヤツらから逃げ続けている
そうやって、あれこれと逃げて、向こうを疲れさせようと行動して、早一時間。
だが、向こうさんは、一向に
相手は中年くらいで、俺のような若者の動きにはついてこれずに、いつかは根を上げるだろうと行動に移したが、そんな気配は一欠片もない。
まるで疲れなど知らないかのように……。
「いや、もしかしたら……」
俺はポケットを探って、透明なプラケースに入っていた
それから、何の考えもせずに、その中身を地面へと投げつけた。
カランという衝撃と一緒に飛び出してゆく、金メッキの画ビョウたち。
そのまま地につけられたトラップたちは、相手が罠にかかるのを待つ。
後は近くの草の茂みに隠れて、反応を
「あのガキめ、今度はどこに行きやがった?」
「いや。今さっき、向こうの茂みに隠れようとしていたはずだ」
「……だな。オレたちから逃げられるものか」
男衆二人が近づいてくるのを確認して、俺はポケットから灯りのついたペンライトを、遠くの草原に投げ込む。
「おい、今、光があっちに移動したぞ。恐らく、向こう側に逃げていったぞ」
「……そうか、あっちか」
男たちが進路を変え、画ビョウのある地面へと足を繰り出す。
俺は、その光景から目を離さなかった。
踏まれていくアイテム。
そのまま潰れていくアイテム。
ヤツらが踏んだ画ビョウの先端の針は折れ、乾ききった土の地面の中へと埋めつくされた。
その踏んだ痕跡も残さない大きな足の裏は、無傷で出血すらしていないし、痛みで声を出すこともない。
俺の睨んだ通りに、ことは進んだ。
あの二人は初めから、人間じゃなかったのだ……。
──まあ、そうじゃなければ、そう簡単に人を
……それに前回、俺に向かってのトラックから流れ出た、あの角材の攻撃。
あれだけ大量の角材を事故に見せかけて、俺の前にばらまき、なおかつ、こちらも動いていた俺を巻き込んだはずなのに、俺自身を無傷にするなんて、事故にしては事実上、不可能な腕前だ。
まさしくコンピューターのような頭脳を使った正確な計算力で、そうさせたに違いない。
だとすれば弥太郎に関する部下は、大半がロボットということになる。
いや、精密な人間の造りをしたアンドロイドと言えるだろう。
人間の弱みさえもない、あんなヤツらに捕まったら、間違いなく終わりだ。
俺は全身の力を振り絞り、奥歯を噛みしめながら、
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──長かった森をぬけ、霧が拡散され、人の気配が全くしない場所で足を休める。
寂れた見慣れない街の様子なのに、暖色のオレンジな灯りが辺りを包み込んでいた。
どうやら壁際に、白く横長に続く壁があるからにして、これは城を守る壁であり、周辺の街並みからして、一つの城下町のようだ。
「待てよ、城があるということは……」
俺は頭の知恵を振り絞り、それなりの結論を思い浮かべる。
「俺の推測が正しいとしたら……」
近くにある古ぼけた材木で
「やっぱり弥太郎絡みか……」
さっきの蝶での記憶により、より確信を帯びていた……。
弥太郎の親は富みに長けており、莫大な財産を持っていることから、
今はその城は展示物になり、一般でも公開されているという文章のプリントが、近くの掲示板に貼られていて、
俺を追いかけてきた二人も、あの城内で生まれたのだろうか……。
となると、あの二人は、ここの地形を知り尽くしているはず。
何か裏をかかなければ、向こうさんを上手く出し抜けないだろう……。
「考えろ。きっと何か手があるはずだ」
俺は必死になって、対抗策を考えた。
そこへ
それはわざとらしいほどに、斜めになっていた電信柱だった。
「そうか、その手があったな」
その電信柱を、近くに意図的にあったかのようなビックな斧で、昔話で金太郎が担いだであろうマサカリのように、何回もなぎ払う。
しばらくして亀裂が広がり、ガツンと鈍い音を立て、ゆっくりと外側に折れ、派手な衝撃音と地響きで倒れる電信柱。
『ドカーン!!』
「見つけたぞ!」
そこへ激しい破壊音を鳴らし、城壁をぶっ壊したあの二人組が現れ、そのまま倒していた電信柱の餌食となる。
「なっ、何だ? ぐああああ!?」
「ぎゃあああ!?」
二人組は電信柱から千切れた電線に絡みつかれ、激しい光に包まれ、体の全身を震わせながら感電する。
やがてプスッという音が、ヤツらの口から漏れて、黒い煙を吐きながら、地べたへと倒れていく。
黒こげた肉体から瞳孔の光が消え、動きが止まり動かなくなった。
電化製品でなおかつ、鉄の固まりなら電気は防げなく、感電してショートするはず……。
俺の読みは見事に的中したのだった。