<ニュールミナス市/ザバラタウン>
俺たちは、ニュールミナス市の中心部に近い繁華街にやってきた。
ここザバラタウンは、高いビルが建ち並び、カラフルなネオンの看板が昼間から眩しい光を放っている。
通りを往来する人間は、身なりのいいビジネスマンから、水商売風の男女まで幅広い層がいる。
アイマナによれば、魔獣の子が最後にM-システムに検知されたのが、この周辺らしい。
しかし本来、
そのため、魔法でも使ってくれない限り、これ以上M-システムで潜伏場所を絞り込むのは難しいだろう。
というわけで、俺はメリーナとプリを連れてここまで来たのだが。
「ライちゃん、プリはなにすればいいわね?」
さっそくプリが聞いてくる。
やる気があるのはいいことだ。
「この写真の男を探してくれ」
俺はアイマナから受け取った写真をプリに見せた。
それからメリーナにも確認させる。
「やせた男性……? 歳は若そうだけど……なんだか無機質な雰囲気ね……」
メリーナが率直な感想を漏らす。
その通りなのだが、アイマナが聞いたらどう思うか。
俺は少しだけ心配になったが、耳の奥に張り付いてるイヤーピースからは、明るい声が聞こえてくる。
『普通の
声の調子から察するに、アイマナは元気みたいだ。無理をしている雰囲気でもない。
魔獣の子を捕まえてほしいと頼んできた時の、あの寂しげな雰囲気が嘘だったみたいに……。
ふと俺の脳裏に、一時間ほど前のやりとりが蘇ってくる。
◆◆◆
魔獣の子を追うと決めた後。
俺はアイマナに確認したいことがあったので、二人きりで話す時間を作った。
「魔獣の子は、本当に
「はい。M-システムに引っかかったデータを解析したので、間違いありません。この連続殺人犯は、
「
それこそが一番の疑問だった。
俺が知る限り、アイマナ以外の
「単なる電力式ロボットと違って、魔力を使った
「笑えないな」
「とはいえ、ご存じの通りマナは世界で唯一の完璧な
「そんなことは初めから心配してない。それより、仮に
「動機なんて知りませんよ。魔導AIの異常なのか、そう指示されてるのか、あるいは自由意志に目覚めたのか……。いずれにしろ困っちゃいますよね。連続殺人犯の正体が
アイマナはニコニコした顔で話していたが、声の奥には寂しさが潜んでいた。
「そうだな。アイマナのやる気が下がっても困るし、さくっと捕まえてくるか」
「……センパイはマナが困ってたら必ず助けてくれるんですね。マナのこと大好きじゃないですか」
「アイマナに対しては、人生の
「ふふっ……本当にズルい人ですね」
「そうじゃなきゃ、こんな仕事はやってられないよ」
◆◆◆
俺たちはしばらくのあいだ、あてもなく繁華街を歩き回っていた。
アイマナに大見得を切ったのはいいが、今のところ全く成果はない。
『センパイ、さくっと捕まえてくれるんじゃなかったんですか〜?』
言うな。俺はこういう単純な人探しは苦手なんだ。
だからこっちよりも、あっちの班に期待したほうがいい。
と、俺はアイマナに尋ねてみる。
「ジーノたちはどうしてるんだ?」
魔獣の子探しは、二手に分かれて行っている。
街の東側を俺たちが、西側をジーノたちが探す手筈になっていた。
『向こうの班は、ジーノさんがカジノに入ってスロットマシンのレバーを引いたところで、ロゼットさんが床に引き倒したらしく、大騒ぎになってました。そこでマナは無線を切りました』
アイマナが淡々とした口調で伝えてくる。その情景が目に浮かぶようだ。
「班分けをミスったか……」
『せめて<ソウデン>さんがいれば良かったんですけどね』
「そういえば、あいつはどうなった?」
『定期連絡はもらってますよ。いつも「順調だ」の一言だけですけど』
「相変わらずだな」
いないメンバーの話をしてもしかたない。
しかしジーノたちの班が使えないとなると、こっちの班だけで事件を解決するしかないのか……。
『センパイたちは見つけられそうですか?』
「そうだなぁ……」
俺はアイマナと話しながら、メリーナとプリの様子を窺う。
二人は、少し離れた木陰のベンチに座り、ジェラートを食べていた。
「あいつらは飽きてるな」
俺がそう告げると、無線越しにため息が聞こえてきた気がする。
『メリーナさん、プリちゃん、申し訳ないのですが、もう少しだけセンパイの力になってあげてください』
アイマナが無線越しに、二人に呼びかける。
すると、ジェラートを食べていた二人がパッと立ち上がり、俺の元に駆け寄ってきた。
そしてプリがジェラートを差し出してくる。
「ライちゃんも食べるわね!」
アイマナが言ってたのは、そういうことじゃないんだけどな……。
「わ、わたしも……。食べさせてあげようかな……?」
なぜかメリーナまでジェラートを差し出してくる。
二人して、どういう思考回路をしてるんだか。
「ここにきたのは、アイスが食べたかったからじゃなくて、写真の男を見つけるためだ」
俺は改めて目的を告げた。
するとプリもメリーナも、なぜか初めて聞いたかのような反応を見せる。
「プリ、探すのよ!」
「わたしも! それがライのためになるなら!」
俺のためじゃなくてアイマナのためだし、できればメリーナに
そう思っていたら、またアイマナが無線で呼びかけてくる。
『メリーナさん、プリちゃん、がんばったら、センパイからすごいご褒美がもらえますよ』
その言葉を聞いた二人は、そろってうんうんと頷いていた。
それからプリが真剣な顔で言うのだった。
「ライちゃん、プリは、ごほうびがなくてもがんばるわね!」
「プリは良い子だな」
俺はそう言って、プリのふんわりしたオレンジ色の頭を撫でてやる。
すると、なぜかメリーナも金色の頭を差し出してくる。
「わたしもがんばるわ! ご褒美がなくても!」
いや、それは完全にご褒美を求めてないか?
まあでも、やる気になってくれてるならいいか……。
俺はメリーナの頭も撫でておいた。
「くふぅ〜いいわぁ〜これ……」
メリーナがおっさんみたいなリアクションをしてるが、見なかったことにしよう。
一方、無線の向こうからは邪気を感じる――。
『センパイ、なにをしてるのか見えないですけど、きっと任務達成のために必要なことなんですよね?』
アイマナの問いかけは無視しておいた。