「ん゙びゃああああああああっ! ごべん゙なざいぃぃっ!」
「りく、もー! めっ! よ!」
「お前、父さんにおこられて当然のことしたんだから。ちゃんとはんせいしなよ」
「ん゙み゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙っ!」
号泣。大号泣である。
あの後、外から電線を繋ぎ合わせ、電気が復旧したことにより、昇降機も動き出した。
それに乗って降りた先には、ほぼ泣いていた真理藻さんと、それ以上に泣いていた糸井ちゃんに出迎えられた。
「無事で……っ! ほんとっ、ぶじ、よっ、よがっ……!」
「糸井ちゃん、心配かけてごめんね。真理藻さんも、二人のことありがとう」
「ううん、もっとあたしがちゃんと手をつないでいれば、空ちゃんが飛び出すこともなかったし、花も機体の前に出ることもなかったの」
「これはわたしが悪かったんだよ。普段は大人の言うことをちゃんと聞いてくれる子たちだったから、油断してた。ハーネスでも何でも、渡しておけばよかったの」
二人で交互に謝り倒している横で、ドタバタ駆け寄る足音が二つ。
「社長呼んできました!」
「陽毬っ! 子供たちは!」
整えられた髪を振り乱し、駆け付けた望さん。
会議は終わったのだろうか。それとも放り出してきたのだろうか。
それよりも、まず、わたしは真っ先に彼に伝えた。
「みんな、無事っ!」
駆け込んできた勢いのまま、気が付けば望さんの腕の中。
「よかった……っ! 報告を聞いて、生きた心地がしなかった」
安堵の言葉と深いため息。
そのままに、無事を喜びあってしばらく。
「さて……」
体を起こした望さん。
まるでその顔は。
「陸」
「ぴゃっ!」
「お話、しようね?」
「や、やーっ!!」
そうして冒頭に戻る。
こってり叱られ、号泣する陸の両サイドは、絶対に離すものかと言いたげに、空と海ががっしり掴んでいる。
陸の背後には花ちゃんも固まり、三方向閉じ込めの完璧な布陣である。
「んみぇぇぇ……」
ぐすぐすしゃくりあげる陸は、言っては本人に悪いが、何だか怒られて落ち込む小型犬のようで和む。
「陸」
「んぁぃ」
「いけないことしたら、めってされるの、わかった?」
「ぅ゙ん゙。わかった」
「それじゃあ、みんなにごめんなさい。できる?」
ここに集まっているのは、陸によって起こされた機体の暴走を止めるために尽力してくれた、大人たちだ。
ズラッと並ぶ、自身よりも遥かに身丈の大きな生き物を前に、陸はもじもじ口ごもる。
「えっとね、あのね……」
わたしから見れば、ここにいる人たちはこの小さい生き物を微笑ましく見守っているように見える。
けれど、本人からすればこれだけの大人に囲まれているのは、威圧感を感じるどころではないだろう。
それでも陸は、勇気を振り絞った。
「かってにロボットうごかして、ごめんなさい!」
ペコリと九十度超えて大体百二十度。
社会人もびっくりの深々としたお辞儀を披露すると、ほっこりした空気の中から、微笑ましさに思わず漏れる笑い声。
わたしも陸の隣で、深く頭を下げる。
「うちの子がご迷惑をおかけしたにも関わらず、身の危険を顧みず鎮静に尽力していただき、ありがとうございます。申し訳ありませんでした」
親として、人として。ここにいる人たちに深い感謝と謝罪を。
しばらくそうして頭を下げ続けていると、豪快な笑い声。
金谷さんの笑い声。
「子供なんてのは、ヤンチャしてでかくなっていくんだ。大切なのは、悪いことしたら謝る! それができれば大したもんだよ」
ゆっくり頭を上げる。
こちらを見る人々は、皆優しい目をしていた。
「陸坊。プロトBEASTは楽しかったか?」
「うんっ!」
「そーかそーか。今度な、ここにBEASTをちっこくしたヤツに乗ることができる、遊園地みたいなものができるんだと」
「ゆーえんち?」
「そうだ。そのBEASTなら、陸坊も思いっきり遊ぶことができるから、それができたらまたおいで」
がっしがっしと陸の頭を撫でくりまわす金谷さん。
彼の目は、まるで孫を見るような、とことんまで優しい目だった。
「しかし俺は安心したよ。あの跳ねっ返り整備士だった陽毬が、まさかちゃんと母親できているなんて」
「カナさーん。今ここで言う話じゃないでしょー」
「伝説だぞ? 暴走寸前の機体に飛び移って、内部からショート起こして止めた、跳ねっ返りエピソード」
「あ、それ私も聞いたことありまーす」
「あの後、機体の復旧やらなんやらで大変でなぁ。コイツは始末書書かされてた」
「カナさーん、もうその辺にしてよぉ」
突然の過去暴露。頬に集まった熱をハタハタ仰いで逃がしながら、金谷さんへ文句を言う。
彼は一体どこ吹く風。へらっと笑って受け流す。
「しっかしまあ、跳ねっ返りは健在だったな。まさか動き回るBEASTを、直接コード切断して止めようとは思わんて」
「動くBEASTのコードを……?」
初耳なんですが? そう言いたげに振り向いてくる望さんの挙動は、まるで壊れたブリキ人形のよう。
「陽毬? そんな危ないことを子供たちの目の前でしたの? ねえ? 陽毬? お話する時はちゃんとこっち見ようね?」
(あ、やば)
陸に続く説教の予感。
わたしはこの場を逃げ出せない代わりに、思い切り望さんから視線を背けた。