「……起きたか」
目が覚めた。知らない天井と、海の顔があった。
「……お葬式は」
「まだ告別式。だけど空はここで待機。落ち着いたって周りが判断して、参加できそうなら焼却場に同行」
淡々と現状を伝えてくれる海を見ながら体を起こす。
「……ごめん」
「それは両家のじいちゃんばあちゃん、それから葬儀場スタッフの皆さんに言え」
「……ごめん」
「ん。分かればいい」
頭を軽くひと撫で。
本をカバンから取り出して、近くの椅子に腰掛けた。
「……戻らなくていいの?」
「焼香も僕の番は終わった、目の離せない妹が一人、大人たちから休んでいてって言われている。三拍子揃ってるなら、戻る理由はないよな?」
長居の姿勢を見せる海。
彼を視界に入れながら、ベッドの中へ逆戻りした。
「……ねえ、海」
「なに」
「あのね。……やらなきゃいけないことができたみたい」
「奇遇だな」
枕に顔を埋めながらくぐもった声質で海に話す。
すると海は読んでいた本を閉じ、立ち上がった。
「僕もだ」
布団から顔を出して海の顔を見上げる。
普段から飄々としている顔に、乾いた涙の跡が見つかった。
「意外」
「何が」
「海も……陸も。こんな状態でも平気でいるのかと思ってた」
「なわけないだろ。手のかかる妹が僕らの代わりに大泣きするから、僕らはタイミングを逃しただけだ」
あきれたようなため息。いつも通り。
「……陸は」
「来客の相手。そろそろ戻ってくる」
タイミングよく、扉にノック音。
海が開けに行くと、そこには陸と……。
「おじいちゃん、おばあちゃん。……教授。なんで?」
『ご祖父母に無理言って連れてきてもらったんだよ。……体調は?』
『最悪』
『だろうね』
苦笑い、共に理解。
『もしも空が、うちの大学に来たいと言ってくれるのなら、奨学金の制度もあることを伝えに来たんだが……』
口ごもるのは、きっとこの顔に何かを見たから。
『……教授、ごめん』
教授に深く頭を下げる。
それで伝わった。
彼は肩を竦めて、目の前から退いた。
「……おじいちゃん、おばあちゃん」
教授の背後に控える両家の祖父母。
彼らをじっと見据えて、口を開く。
「ごめんなさい。やりたいことができたんだ」
しばらく目を瞑っていた、父方の祖父が言う。
「言ってみろ」
開いたこの口は、さも台本があるかのような滑らかさで言葉を紡ぎ、大人たちの顔を驚愕に彩った。
***
始業のベルが鳴って数時間。
時間にして、たぶん放課後。
今、陸と海と一緒に学校へ来ていた。
「空?!」
クラス前の廊下、通りかかると椅子が勢いよく倒される音。
続いてバタバタ駆け寄ってくる、身長の高い友達が一人。
「空!」
「おはよ、茂庭さん」
「おはよう……、じゃなくて! ……その、もう大丈夫なの?」
気遣ってくれているのがよくわかる、控えめな問いかけに、クスリと小さく微笑んだ。
「ん。心配かけたね」
「や、いや、いいんだけど……」
口ごもる茂庭さん、背後から三浦ちゃん。
「空ちゃん……」
「三浦ちゃん。髪形変えた? かわいい」
「え、へへ、下ろしてみたんだぁ……。空ちゃんも、髪形変わったんだね」
「そ。似合うでしょ」
「似合う、ポニーテール、初めて見た」
「あれ? そうだった?」
軽い雑談を廊下で交わしていると、耳元で陸。
「空、そろそろ」
「そうだね。二人とも、ごめんね。先生の所に行かなきゃ」
「そ、そっか。えっと……」
「明日からまた学校に来るよ。卒業日数足りないとか、笑い事じゃないからね」
どこか安心した風の三浦ちゃん。
踵を返して歩く先。
「……空!」
背後にかかる、茂庭さんの呼び声。
「困ったことがあったら、無くても、頼ってよ。話聞くくらいなら、するし」
廊下に響く茂庭さんの声に、片手を軽く上げて応えた。
「ありがと」
陸海二人に連れられて去った廊下で、友人二人はひそひそと。
「……なんか、空、雰囲気変わった?」
「う、うん。なんか……」
「カッコよくなった、よね?」
「うん。かっこいい」
密やかな密談は、三つ子には届かず。
三人は進路相談室の前で歩みを止める。
「……二人とも、別に付き合わなくったっていいんだよ?」
ここが最後の砦とばかりに忠告すると、竦められる肩。
「別にお前のためじゃねぇって」
「僕たちは、自分たちで考えてこの道を選んだだけだ」
「そーそー。……なんだよ、ビビってんのか?」
陸の挑発。
鼻で笑って、手で払う。
「馬鹿言わないで」
「そう来なくっちゃ」
いとも容易く開かれる扉。
珍客三人組に、寛いでいた室内の教師が、背もたれからずり落ちた。
「……え? 天嶺?!」
「お久しぶりです。進路希望調査票。提出が遅れて申し訳ありません」
「いやいや、それは構わないんだが……。大丈夫なのか? その、親御さんが」
みんな同じ心配をするな、なんて、思わず失笑。
「身内間で一応、一段落はつきました」
「そ、うか。……なんか雰囲気変わったか?」
「そうですか?」
近況報告という名の雑談をしながら、提出された三枚の紙に目を通した教師は、何度も紙とこちらを見比べる。
「……これ、本気か?」
信じられないと言いたげに、歪んだ表情を浮かべる教師。
無駄な疑念を抱かせないように、力強く頷いてみせた。
「本気です」
「……いや! でも、勿体ないぞ?! 天嶺の……陸さんは企業の枠を蹴っていいのか? 海さんだって志望校の判定、結構いい結果をもらっていたじゃないか! 空さんも……大学の教授から、教授職の道だって示してもらっていたじゃないか」
やり切れないように肩を落とす、教師の反応は最も。
大人からすれば、きっと愚かな判断を下したと嗤われる選択。
だけど、後悔は微塵もない。
「構いません。先生――」
音が一拍、世界から消える。
次に鳴る音は決意の音をしていた。
「
言葉を失う教師の目を見て、
「私たち、自衛軍士官学校に志願します」
目の前の彼の瞳に映る私の顔に、甘ったれな