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0811 言葉にならない

「さぁお食べ」


目の前に盛り付けられた料理に言葉が出なくなった。

フライの衣の端から見えるのは、食べ物の中に入っている確実に入っちゃいけない黒い脚。


料理研究家の彼女が珍妙な料理を作ってくれることは多々あるのだが自分が唯一NGを出している昆虫料理をわざわざ出してきたこの現状。

マジで何があったのか思ったら彼女はフライを一つ掴んで口に入れた。


「毒は入ってないから食べなよ。

マダガスカルゴ●ブリのフライの南蛮漬け」

「いや、毒が入る可能性があるのかよ」

「今日はフグ刺しにしようかとも考えたんだが一応抒情酌量の余地を作ってあげようと思ってさ」

「…俺なんかした?」

「自分の胸に聞いてみる事だね」


自分を毒殺する気満々だったらしい。

一応理性で踏みとどまってくれているようだがしっかりNG料理を出してきている当たり本気度が伝わってくる。


彼女の冷たい視線を受けながら俺はありそうな可能性を羅列する。


「えっと…誕生日が近いのに何のアプローチもなさそうな事?」

「君は一月以上前にさりげなく要望を聞いていてくれただろう」

「何か家事当番でも忘れてたっけ?」

「それはしっかりやってくれているじゃないか。

それよりも今日の夕方どこにいたんだい?」

「いや、用事があるって」

「じゃああの女は誰?」


彼女の冷たい視線に俺はようやく合点が行った。


「あ、もしかして嫉妬?」

「?」


彼女が眉間に皺をよせ訝しむ。


「いや、あれ姉ちゃんだよ」

「…弥生姉さん?

え?アレが??」

「気になるなら今ここで直接電話してみたら?」


用心深い彼女はためらわず姉に電話。

要件を話した後少しの問問答で彼女の眉間の皺が無くなっていく。


「…あ、ありがとうございます」


電話を切った後彼女は南蛮漬けの皿を彼女のテーブル側に下げ冷蔵庫から綺麗なお刺身を出してきた。


「…殺す気?」

「元々今日はフグ刺しの予定だったんだよ。

私も食べるし下処理はバッチリだから安心して。

それとごめん」


彼女は照れているのかそっぽを向いて頬を赤くしながら言う。


「私のリクエストを探してくれてたんだ」


明後日の彼女の誕生日のリクエスト「普通の女の子っぽいアイテム」を探す為、実は今さっきまで姉と普通の女の子っぽいアイテムを探しに行っていたのだがどうやらそれを彼女に見られていたのだろう。

それを今回彼女は浮気と思ってしまったらしい。


いつも変人を気取っている割にしっかり嫉妬するし恥ずかしがる彼女は『普通』で可愛い。


彼女の誕生日は週の真ん中の水曜日だからそれまでプレゼントは隠しておこうかと思ったが止めた。

俺は自分のカバンから彼女への誕生日プレゼントの包みを取り出し渡す。


「ちょっと早いけど普通の女の子っぽいリクエストって事で今年はかわいい系のエプロンにしてみました」

「あ…ありがとう。」


貰った紙袋を受け取った彼女は嬉しかったのか俺の首に手を回し、キスーーーしようとしてきたので止めた。


「ごめん、流石に●キブリ食った後のキスは辞めてもらえる?」


彼女はそんな意見を鼻で笑って更に顔を近づけて来た。


「ちょいちょいちょい!」

「大丈夫、食用だからぁ!!」

「そう言う問題じゃないってぇ!!!」

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