『うぇーい、彼氏君見てるー?
今からこの子にあーんな事やこーんな事しちゃいまーす』
「いや、誰だよその子」
『あ、この子現地で出会ったミリンダ。
ついさっきまで飲んでたんだけど酔いつぶれちゃったんだ』
「おーい、ミリンダの彼氏!!俺の彼女にお前の彼女が寝取られるぞ!」
『フフフ、ミリンダ今彼氏いないんだって。
私が彼氏になっちゃおうかな』
「お前は俺の彼女だろ」
『私はあなたの彼女なのは十分承知しているわ。
だからこの子の彼氏になるわけ。
ほら、重複してない』
「まどろっこしいけど筋が通ってるの腹立つな…。
てかお前今どこいるんだっけ?」
『ニューヨーク。
そっちこそどこいるのよ』
「俺は日本に戻って来たよ」
『おぉ、お帰り』
「ただいま」
通話画面の向こうで彼女がお酒を一口。
『こっちは夜だからそっちは…お昼?』
「大正解。相変わらず酒は強いな」
『そりゃそうよ。
そうじゃないと世界各国飛び回って飲む仕事してないわ。
そんな事よりあんた最近成果あった?』
「もちろん。
わざわざ冬のロシアに行ってきたかいがあったよ」
そう言って俺は最近の出来語を話した。
ーーー俺と彼女は恋人同士である。
しかし互いに仕事の関係で世界各地を飛び回っている為こうして週に一度時間を合わせビオ電話をしている仲だ。
旅の先で何度も出会い、引かれ、体を重ね、恋人になったのだが直接会うのは年に数度。
だが互いに根無し草だからかこれを認め合える関係は本当に気が楽だ。
『あ、あんたこのまま大晦日と三箇日は日本にいるのよね』
「ん?
そのつもりだけど」
『おっけ。
明日飛行機取って明後日日本に帰るわ』
「どうした急に。
お前仕事あるだろ」
『無くなったのよ、シェフと一緒に仕事が。
だから日本でセキ入れない?』
「席?何の?」
『結婚の籍』
「…あれ?
一生恋人って話じゃなかったっけ?」
『んなのどうでも良いわよ。
それより、あんた私と籍入れる気あるの?』
「そりゃもちろん。
てか酔ってる?」
『酔ってる。
でもね、酔いの勢いとかじゃないの。
アンタ今日が何の日だか知ってる?』
「クリスマス。いや、そっちはイブなのか?
…だからわざわざそれに合わせて告白したってか?」
『---』
「どうした?」
『…嫌だった?』
自信家の彼女が消え入りそうな声で聞き返す。
「嫌なわけねぇよ」
『今まで通り現地妻作るなら私の目の届かない所でなら許すからね』
「…」
『…どうしたの?』
「お前、俺が本当に現地妻作ってると思ってるのか?」
『抱けない女は虚しくない?』
「いや、会う都度に抱いてるだろ」
『日常的の話』
「…ん?」
『…ん?』
互いに沈黙。
『もしかしてアンタ私以外抱いてない?』
「抱いてないな」
『…』
「どうした?」
『え、待って…。
それガチ?』
「接客の関係上女の子のいる店でお酒を飲むのは結構しているな」
『え?それ以上は??』
「無いな」
『ちょっと待って、私自分の事が恥ずかしくなってきた』
「あ、お前抱かれたのね」
『ごめん!色々むらむらしちゃって!!
私お前以外今後一生抱かない!!』
「別にそんな気を使わなくてもいいぞ」
『いやいや、お前私の事なんだと思ってんの!?』
「暴食と色欲を極めた女」
『…恥ず!!』
「あのさ、俺はお前が誰とやろうと別に構わないぞ。
俺の前でやんなければ」
『えぇ…それどういう事?』
「俺はさ、お前とこうして成果を語りあって、くだらない話して、時々会って、一緒に過ごせる。
その関係を続けられるのがとっても嬉しいんだ」
彼女は画面越しで胸に手を当て一言。
『キュン』
「聞き飽きたわ、恋に落ちる音」