聖女アリシアさん曰く——
(「会って、がっかりしなければいよいのだけれど……」)
がっかりとはどういう事なのだろう。ボクがモリクボ先輩に再会してがっかりする訳がないじゃないか。
しかし、ボクは何か知っているのかもしれないアリシアさんに、その「がっかり」する理由を聞かなかった。
もしかしたら、もうモリクボ先輩はボクの知っている先輩じゃなくなっているかもしれない、そう思ったからだ。
そんなわけで、魔法王国ゴンドーラの遺跡へは
1)金髪ロン毛のAランクパーティ四人
2)王国魔法科学アカデミーの考古学教授と学生二人
3)現役魔法使い二人
4)聖女アリシアさんの同僚の聖女さま二人
この十人に探索に行ってもらうことになった。
ボクは、旅支度を整えて、東の「アタランテ帝国」へと向かうことになった。道連れは、聖女アリシアさんだけ。
ボクの背丈と同じくらいの先がエクスクラメーションマークのようにまがった魔法の杖と、ちょっとした小物が少し入るだけの鞄。アリシアさんもにたようなもので、聖女のローブに、小さい鞄だけ。
これで旅にでるの?
* * *
アタランテ帝国の国境までは徒歩で約一週間。近いようで遠い道のり。
馬車などもあるようだけど、ボクの魔法を鍛える為にも歩きながら道すがら小物を倒しつつ進んでいこうとなった。
遠くに山々がそびえているが、街道沿いには、ポツポツと木が生えていたり、岩場があったり、ちょっとした丘なども見える。あとは延々と草原が広がるばかり。
王都から東に伸びている街道。
幅は馬車が二台並んで進める程度の広さだ。
綺麗に整備されてはいるが、舗装などはしていない。路面はただ土が踏み固められたようなもので、一応は石や岩は取り除かれている。地面の傾斜にあわせて右に左に結構カーブがある。
―― 一日目
王都を出ると魔物よけ結界が弱くなる。
半日も歩いていると早速、街道の脇の草むらから魔物が現れた。
「ぶひぃぃぃぃぃ」
イノシシだ! いや、異世界だし「イノシシのようなもの」が正確な表現だろうか。
「シノヤマさん! 攻撃魔法! やってみて!」
「はいっ!」
色々と教えてもらっていた魔法を早速使ってみた。
魔法の杖をイノシシのようなものに向け、攻撃魔法名を叫んだ。
「ふぁ、ふぁいやーぼーるっ!」
すると、杖に向かって光のつぶが集中していくのが見える。眩しい。とてもまぶしい。しゅううっと空気の流れのようなものも感じる。目の前に赤く熱い火の玉が生成された。
自分の頭の大きさくらいまで膨らんできたところで、シュッとイノシシに向かってそれは勢いよく飛んでいった。
「ぷぎゃあああああああ」
一撃だった。ボクの放った火の玉「ファイヤーボール」は、イノシシに命中したと同時にその肉を焼き、絶命させた。
「ふぅ……これはすごいですね」
「シノヤマさん、やりましたね。やはりあなたは魔法の素質がありますよ。レベル1でこれは相当なものです」
命に対してこんなことをいうのもなんだけど……いい匂いがする。
まじまじと焼けたイノシシを見ているとアリシアさんが、すっとその肉を掴んだ。
「ちょうどいいから、今日はここで野宿しましょう。これ、おいしいんですよ。うふふ」
「旅の支度がずいぶんと少ないなあと思ったら、現地調達だったんですね」
「冒険者たるもの、大荷物で移動とかはしないものよ。大所帯のパーティなら、荷物番もいますけどね」
街道の脇に、二、三本の木立があったのでその近くで焚き火をおこし、そこで野宿をすることにした。
*
今日は、一日中歩いていたのと、はじめての魔法でクタクタだったので、イノシシ肉を頬張ってしばらくすると寝落ちしていた。
真夜中、ふと目がさめるとボクは、アリシアさんの膝枕で寝ていた。アリシアさんの手がやさしくボクの髪を撫でていたような形のまま、彼女は寝息を立てていた。
いい匂いがする——
—— つづく