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5 旅の途中

 ボクと聖女アリシアは、東の隣国「アタランテ帝国」を目指して歩いて旅をしている。


 今日はまだ二日目。半日近く歩いたのだけれど、このあたりには村も街もなかったので、昨日は野宿をした。


 昨晩食べた、はじめての魔法で焼いたイノシシの肉、香ばしくて美味しかったなぁ。豚肉よりも脂身が少なかったけど、ボクはあの味すきだ。


   *


 さて、今日は少し多めに歩いて、村か街までは到達したいところ。


「シノヤマさん、まだ歩ける? そろそろ日が高くなってきたので、休憩しましょうか」


 少し息を切らしているボクを見て、アリシアさんが心配して声をかけてきた。


「はぁはぁ……アリシアさん、ありがとう。でももうちょっとだけ歩いて、向こうに見えている小川のほとりまでいきませんか?」


「そうね、そうしましょう。なんか果物が実ってそうな木も見えますね」

「くだもの! それは楽しみですね」


「さあ、もう少しだけ頑張って歩きましょうね」


 昨晩、真夜中にふと目が冷めた時に、ボクはいつのまにかアリシアさんの膝枕で寝ていた。


 頬に感じたアリシアさんの温かい太ももの感触と、胸のあたりからただよう甘い香りが、今もはっきりと脳裏に焼き付いている。


 いまボクは魔法使いの女の子の身体になっているのだけれど、心はやっぱりまだ高1男子のまま……。


 少しお姉さん風のアリシアさんの感触にドキドキしている。


 気のせいか、今日のアリシアさんはなんだか少しやさしい気がする。


   *


 太陽が丁度真上に来た頃、僕たちは小川のほとりまで歩いてきた。大きな広葉樹が、いい感じに木陰を作ってくれていて小川を撫でるそよ風と合わさり、とても涼しく快適な空間になっている。


 あたりを見回してみると、リンゴのような赤い果物がたわわに実っている木がそこら中にあった。


 アリシアさんが赤い果物をもぎってボクに投げてきた。

「ほら、食べてみて」


 口にすると、思ったよりも酸っぱかった。

「うわっ、すっぱ!」と声をあげると、アリシアさんがクスクスと笑う。


「まだ少し早かったかもしれませんね。でも、その顔⋯⋯うふふ。面白いからヨシ!」

「アリシアさぁん、ちょっと意地悪だよう」


 そんな何気ないやりとりが、なんだか嬉しい。


「昔、ここらで休憩をしていた冒険者か、商人が食べたくだものの種が自然に芽を出してここまで育ったのかもしれませんね」

「へぇ、アリシアさん、これだけの状況でそんな風に推測したりもするんですね」


「いやねぇ、私、これでもお勉強は得意だったんですよ? それに少しは思慮深くないと聖女なんかにはなれませんし」

「そっか、アリシアさん、聖女だっけ……」


 ボクの中で少しづつだが、アリシアさんの見方が変わってきたのを感じる。


 最初は、王国の利益を最優先し、人の気持ちをわかってくれない「嫌な」お姉さんかと思っていたのだけれど……。


「ちゃぷ、ちゃぷっ」


 靴を脱いで川の水に足をつける。歩き続けて少し疲労しているふくらはぎにこれは効く。


「あぁぁぁ、気持ちいいぃぃ」


 静かに風が草をなでる——


「さらさら……」




「さあ、そろそろ出発しましょうか」

 そう言ってアリシアさんが頭にタオルをかけてくれた。


「はい、これでふいて」


 アリシアさんの匂いがする。


   *


 歩き続けること数時間⋯⋯。すっかり日が傾き空も赤く染まっていた頃。


 街道の先の方にチラホラと民家が見え始めた。


 街道沿いの村「ヨシムラ」だ。


「あそこは確か細々と野菜を栽培しているヨシムラ村ね。今日は村の宿屋に泊まりましょう」


「久しぶりのベッドですね」

「うふふ」


 この小さな村にも小規模ながらギルドの出張所あった。まずはそこに顔を出そうとアリシアさんが連れてってくれた。


 ――カラン


 ギルド出張所の扉を開けて中に入ると、入口横のテーブルで三人の冒険者パーティらしき男女が食事を取りながら談笑をしていた。


 どこのギルドもそうなのだけれどここのギルド出張所も、食堂と宿泊施設が併設されているらしい。村唯一の食堂と宿屋っぽい。


「すみませーん、何か飲み物と夕食を用意してくださらないかしら」

「はーい、少々お待ちー」


 アリシアさんが声をかけると奥の厨房の方から返事が返ってきた。


 空いている席に座り一息ついていると、三人冒険者たちが何やら盛り上がっていた。


 聞き耳を立てていたわけではないのだけれど、どうやら帝国に突如現れたという勇者モリクボについての噂話らしい。


 ボクはたまらず立ち上がりその食事中の冒険者パーティに話を聞く事にした。



          —— つづく

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