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6 帝国の勇者の噂

 およそ一ヶ月前、アタランテ帝国の領地内で突如魔族が現れたらしい。


 出現したのが警備手薄の帝都から少し離れた小さな港町らしく、魔族により町民の半数が無惨に殺害されたとか。


 ――その時だった


 長い黒髪をなびかせて、素っ裸の若い男が突如まばゆい光と共に港の桟橋に現れた。


 そこらに落ちていた木片を手に取ると、それはたちまちその男の背丈と同じ程の長さの青白く輝く美しい剣に姿を変えた。


 その男は、その手にした剣を華麗に振り回し、迫り来る魔族共を薙ぎ払ったという。


 その後、その被害にあった港町に帝国騎士団が視察に訪れる。


 突如現れた剣聖のごとく強い、その男を帝都に招待したそうだ。



 その男の名は、異世界転移勇者「剣聖モリクボ」



 背は高いがあまり筋肉質ではなく色白で、眼鏡をかけている。それほど強そうには見えなかったらしい。素っ裸だったし。ただし剛毛。


   *


「聞いたところによると、帝国内の冒険者ギルドでその男の判定が不可能で、暫定トリプルS級剣聖勇者と認定したらしい」


 食事をしながらそう話をしていたのは、まだ駆け出しの若い冒険者パーティのリーダーっぽい男。みたところ二十代前半といったところだろうか。


 ボクもその三人のいるテーブルにつき、話に加わった。


「容姿についてもう少し詳しい情報はないのかな?」


 そう尋ねると、そのパーティメンバーの一人、武闘家っぽいなりのその女の子が答えてくれた。


「なんでも、ものすっごいイケメンらしいよぉ? 珍しい黒髪で、肩にかかるその長い髪はツヤツヤと輝いているとか。そうそう、丁度あんたみたいな黒髪らしいよ。珍しいね?」


「えっ? ま、まあそうみたいですね」


「ただね……ちょっと色々と問題もあるようなのよ」

「問題?」


「そう、どうもその男、かなり女癖が悪いらしくって、毎晩……その、かなり夜の大冒険をしているらしいのよぉ。いやぁぁん」


 武闘家といえど、女の子。こんな話が楽しいみたいで、身体をくねくねさせてなんだか嬉しそうに話をしている。


「ええ……まさか、でもそれは噂ですよね?」

「まー、そうなんだろうけどね。イケメンときたら大体そういった噂がながれるもんさ」


 そんなまさか、と思いつつも確かにあの先輩が男化したら有り得なくもないかもと思ってしまった自分が憎い。


 しかしあの先輩のことだ。きっと何か訳があるんだろう。


 少し強引だったり大雑把なところはあったけど、人の気持ちをもて遊んだり、出鱈目をするような人ではなかった⋯⋯はず。


 少し自信がなくなってきた。


 兎にも角にも、間違いなくモリクボ先輩だろうと確信がもてた。


 一刻も早く再会したい。


「シノヤマさーん、食事が来たからこっちにおいでー」


 アリシアさんが連れ戻しにきた。


 今日も歩き疲れたので、さっさと食事を済ませて明日に備えて早めに寝るとしよう。


   *


 狭い部屋にベッドが一つあるだけのシンプルな部屋。


 今夜はここで寝るらしい。


「⋯⋯!」


 は? なんで?


「ほら、シノヤマさん、服を脱いでベッドにおいで」


 もしかしてアリシアさんとベッドを共にするの?


 くどいようだけど身体は女の子だけど心は高一男子のままなんですけど?



          ―― つづく

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