今宵は聖女アリシアさんとベッドを共にすることになった。頬を赤らめ少し恥ずかしそうにしているボクを見つめるアリシアさん。
「何を今更恥ずかしがっているんです? 昨晩は私の太ももで寝ていたじゃないですか」
「えっ、そ、それは……」
「さあ、おいで。一緒に寝ましょう」
覚悟を決めてスルスルと服を脱いで、ベッドに入った。
「うっ、酒臭い……アリシアさん、お酒飲んだの?」
「そうらよ、飲んで悪い? あたしはもう成人の儀式をしているで、おとななのよさ」
「ええっ、よ、よっぱらっている?」
「よってなんかないわよ。ウィ……いいから、は・や・く!」
ガバっとアリシアさんがボクに覆いかぶさってきた。
目をつむって、両手で胸を押さえていると……
——んごーんごー
アリシアさん、すごいいびきをかいて寝てしまった。そうか、アリシアさんも一緒にずっと歩いていたんだし、疲れていたんだな。
ボクも疲れていたので、そのまま寝落ちした。
——四日目の朝
村を出発して、帝国に向かって東に東に歩いた。ひたすら歩くこと半日。王都からもだいぶ離れた為か、魔物の出現率が上がってきた気がする。
「シノヤマさんっ! あぶないっ!」
街道を歩いているとき、脇の茂みから大量のイノシシ型の魔物が現れたのをアリシアさんが発見。ボクは必死にファイヤーボールをぶっ放した。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ぬおおおおお ファイヤーボールッ!!」
全部で十二体……。ボクのファイヤーボールもレベルが上がってきたのか、一発で二体くらいは即死させられるようになっていた。
あたりに肉が焼ける匂いがただよう。うっ、美味しそうな匂い。
「すごいわね。だいぶレベルが上がったんじゃないかしら」
「はぁはぁ……そうみたいですね、見るからに威力がパワーアップしているように見えます」
そろそろ日も真上にくる頃。折角なので「ファイヤーボール焼きのイノシシ肉」を頂くことにした。
「もっもっ……うーん、美味しい! さっ、シノヤマさんもどんどん食べて!」
「ほんと美味しいですね。この肉。昨日の村で香辛料を分けてもらって正解でしたね。流石アリシアさん」
「どうせなら美味しく頂きたいじゃない? ふふふ」
水筒のぬるい水で、焼き肉を流し込んだ。
*
昼休憩もそこそこに、またボクらは帝国に向けて歩き始めた。あと一日弱ほど歩けば、国境の町「カドマチ」に到着する。
あと半日程のところまで来たところで、日が落ちたのでまた野宿をする事にした。今夜は、街道から北に見えていた岩場の横穴に、腰を下ろした。
——パチパチッ
魔物避けの焚き火の薪を突きつつ、昼間のイノシシ肉の残りを食べている。しかし、美味しいなあ。香辛料がなくても美味しいけど、やっぱり肉には塩と香辛料よね。うまうま。
「ね? 美味しいね、アリシアさん」
「ん……そう、ね」
アリシアさん、ものすごく眠そうだ。船を漕いでいる。
ボクはそっとアリシアさんの横に近づいた。今夜はアリシアさんをボクの膝枕で寝かせた。ふぅ……。
——五日目
朝から歩き続けること、半日。町の高い壁が見えてきた。大きい。さすが国境の町なだけのことはある。ちょっとした地方領主の城壁レベルじゃないか? 高さは……王都にある三階建てのセンターギルドの屋根がすっぽり隠れるくらいの高さがある。
町への入口の門についた。
「聖女さまと魔法使い勇者さまですね、高速伝令からの手紙で話は伺っております。さ、どうぞお通りください」
教会やギルドで手配していたのだろう。話が早くて助かる。
ボクたちは、まずは王国側の冒険者ギルドに顔を出して、魔石と素材を換金をしておくことにした。
「帝国領内に入ったらお金が物をいうから、金貨がいくらあっても余るってことはない」
アリシアさんがいてくれてホント助かる。ボクひとりだと、そういうことに考えが及ばない。
ここ国境の町は、町の西がミヨイ王国、町の東がアタランタ帝国の支配下にある。そして町を南北に貫く国境の壁。これがまた頑強。
町をぐるりと包囲している城壁並だ。
外部の壁は、いざという時の魔物からの防御の役割もあろうが、隣国との国境の壁でこれはちょっと異様とも思える。
過去に王国と帝国との戦争の激しさを忍ばせる。
今は商業やら人材交流やらが盛んで戦争の気配などまったく感じないのだけれど、壁だけがただそこで無言で語りかけてくるようだ。
もう二度と戦争をするなよ、と。
—— つづく