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8 囚われの魔法使いと聖女

 国境の町「カドマチ」のギルド出張所に顔を出した。アリシアさんと受付嬢のいるカウンターに向かう。


「魔石と素材を換金して欲しいのだけれど、あと、帝国金貨への両替もお願い出来ないかしら」

「はい。少々お待ち下さい。えっと、結構な量ですね。少々お時間がかかりますので、あちらの休憩スペースでお食事でも取りながらお待ち下さい」

「わかったわ。じゃあお願いね」

「はい、承りました」


 問題なく換金できそうだ。


「折角ギルドに来ているのだし、食堂でなにかまともなものでも食べようかしらね」

「いいですね。じゃあ、食堂に行きましょう」


 そういうと、アリシアさんが手を繋いでボクを食堂の方へ引っ張ってった。


   *


 食堂につくと、多くの冒険者でごった返していた。喧騒がすごい。


 情報収集の為に、ボクとアリシアさんは、出来るだけベテラン風の冒険者パーティのいるテーブルを探し、声をかけた。


「——ちょっとよろしいかしら」

「おう、どうした聖女のねえちゃん」


 中年の……しかし、いかにもベテラン風の冒険者パーティのリーダーっぽい人にアリシアさんが話しかけてみた。


「実は明日、帝国に入国する予定なのだけれど、剣聖勇者の話って何か知っています?」

「あー知っているも何も、今このギルド内は、その話題でもちきりだぜ」


 かなり話題になっているらしい。しかもなにやら話をしている冒険者たちが楽しそうにしている。そんなに面白い話なのだろうか。聞くのが怖い。


   *


 魔石と素材の換金及び、帝国金貨への両替も済み、僕たちはギルド併設の宿に泊った。


 またもや、アリシアさんと同じベッド……。もう慣れてきた。




 ——五日目の朝


 起床し、出発の準備を手際よく済ませ、ギルドをあとにした。


 さあ、いよいよアタランテ帝国入りだ。ボクたちは、国境の町「カドマチ」を東西に貫く国境の壁にある、関所を訪れた。


「待て」

 関所の番兵に、声をかけられた。当然だな。

「通行許可証は持っているのか?」


「はい、これでしょ」

 アリシアさんは、首からさげていたネックレスを胸元から取り出し、それを番兵に見せた。


 すると番兵は、少しニヤニヤしながら、アリシアさんの胸元あたりを舐め回すように確認していた。

「まぁ、いいだろう。通ってヨシ!」


 国境の壁に設けられた関所の通路を歩き始めた。結構長い。壁自体はそれほど厚いものではなく、一般的な馬車二台分くらいなのだが、関所の通路はその三倍はありそうだ。


 通路を抜けて、帝国側の町に出た。


 すると、待ち構えていたらしい。剣と鎧で重武装している集団に取り囲まれた。


「待ち給え、可愛らしいお嬢ちゃんたち」

 すっと、手で「そこで待ってて」と言わんばかりにボクを遮った。


「なんですかあなたたちは? 私は、ミヨイ王国教会の聖女ですが」

 少し手が震えている……。堂々と大見得をきっているがアリシアさんも怖いんだ。


「我々はアタランテ帝国所属の帝国第一騎士団だ。昨夜、この町に『黒髪の魔法使い』が来ているという情報が入ったので確認にきた」

「な、なんですって? 黒髪の魔法使いとはまた不吉な」


「おぉい、すっとぼけるなよ? お前の後ろのじょーちゃんがそうじゃねーか。どうみても黒髪の魔法使いじゃねーか」

「えっ、なんのことやら」

「とぼけてもだめだ。おい、こいつらを帝都につれていくぞ。ひっとらええい!」


 すると、まわりの部下らしき騎士が、四人がかりでボクとアリシアさんを捕縛した。固く汚いロープで、ぐるぐる巻きに縛り上げた。なんか臭いな、このロープ。ヌルヌルしていて気持ち悪い。


「よし、高速馬車に押し込め。すぐに帝都に向かう」

「ははっ」


 こうしてボクらは、帝国領に足を踏み入れた途端に捕まってしまった。ただ高速馬車で一気に帝都まで連れてってもらえるのは良かったかも。なんてこの時はまだ呑気に考えていた。その時までは……。



          ——— つづく

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