目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

9 城壁の塔

 ガラガラと騒音を撒き散らしながら帝国製高速馬車が疾走する。


 普通の駅馬車とは異なり、ワゴンが流線型になっている。見るからに高速移動重視だ。時々路面のギャップに車輪が跳ねるも、どんどん進む。


 国境の町「カドマチ」でボクの髪が黒いのを理由に、聖女アリシアさんとともに帝国騎士団に捕らえられてしまった。そして現在、帝都に向けて移動中。狭い流線型ワゴンに両端をごつい騎士団員にガッチリと抑え込まれたまま押し込められている。きつい。そして、臭い。


 街道を東に馬車で走ること半日。途中で馬を交代し高速度を維持しつつ走り抜け、帝都を囲む城壁にある門にたどり着いた。




 ——アタランテ帝国、帝都


 そこでボクとアリシアさんは馬車から降ろされ、騎士団から帝都の警備隊に引き渡された。


 警備隊の中で、他の警備兵とは服装が少し違う異質な男に声をかけられた。隊長か?


「おい、そこの黒髪の魔法使い! お前シノヤマだな。こっちに来い」

 首にぶっとい鋼鉄製の首輪をはめられ、腕を強く掴まれ引っ張られた。何故名前を?


 もしかしてモリクボ先輩から聞いているのか。いや、そもそもボクもこの世界に来ていることを、先輩は知らない筈では。


「ちょっと! その魔法使いをどうしようというのです」

 ボクの手を引っ張る男の手をアリシアさんが掴んで制止した。


「お前の相手は俺ではなく、他の警備兵にしてもらうんだな」

 男はそう言うとアリシアさんを突き飛ばした。


「きゃっ」

 その場に倒れ込むアリシアさん。


「シノヤマ! お前には色々と聞きたいことがあるのでな。来いっ」

「は、離せっ。くそっ、ファ、ファイヤー」


「シノヤマさん! ダメっ!」

 アリシアさんが「魔法を使っちゃダメ」と目で語りかけてきた。

 ダメとしか言ってないがそう言ってるように感じた。


 ここで攻撃魔法を使うことでコトを荒立てたくはないのだろう。ボクは大人しくその男について行くことにした。


「魔法を使おうとしても無駄だ。この首輪には魔法を無効化する帝国の科学技術が練り込まれているからな」

 魔法が使えない……だと?


「聖女さんよぉ、お前はこっちだ。来い! たっぷりと可愛いがってやるぜ。ひひひ」

 気持ち悪い笑みを浮かべながら、警備兵たちがアリシアさんにも鋼鉄製の首輪をはめて連れていった。




 ――夜


 帝都は、ぐるりと高い強固な城壁により守られている。その壁の一部が等間隔で見張り台なのだろうか、高い塔になっている。

 その塔の一つ、月明かりの差し込む最上部の牢にボクは捕らえられている。壁から垂れ下がっている鎖で両手を固定された。


 帝都の入口で、ボクの手を掴んでここに連れてきた男は、色々と質問をしてきた。


「お前、異世界からの転移勇者だろ」

「なぜボクが転移勇者だと!?」


「その黒髪だ。この世界の人間で黒髪なのは転移召喚された勇者か、魔族だけだからな。魔族なら角があるがお前にはない。つまりそういうことだ」

「転移勇者だったらなんだというんだ」


「知れたことよ。転移勇者はミヨイ王国の強力な戦術兵器だからな。王国との戦争を控えたこの時期に、勇者をこうやって抑えておけば戦況が帝国の有利になる」

「戦争? それは昔の話では……」


「王国はいつもそうだ。無理やり異世界から強力な勇者を召喚しては、戦争の道具にする。今回もまたそうなのだろう」

「いつも? そんな話は聞いてない」


「そりゃあ言わねえだろう。その時が来るまでいいようにその能力を使われ、そして戦争に参加せざるを得ない状況にするんだ」

「待って。それじゃ帝国に出現した勇者も戦争の道具として帝国側で利用しようというの?」


「ん? 一ヶ月前に港町に現れたあいつか。あいつはとても協力的でな。最初は抵抗されたが、女をあてがってやったら大人しくなってな。所詮、勇者といえど男だったということだ。くっくく」

「そんなバカな。あのモリクボ先輩が」


 いや、分からない。異世界転移した時に男になった先輩は、心も男になってしまったのだろうか。


 ボクもまだ少しだけ、日本で男だった頃の気持ちは残ってはいるが、アリシアさんとずっと一緒だったせいか、少しづつ女子っぽくなってきているような気もする。


 先輩も一ヶ月で、すっかり心も男になってしまったのだろうか。


「さて女であるお前には、どんな方法で従順にさせればいいのかな?」

「……! い、いやっ」


「ふん、まあいいさ。そんなに急ぐこともない。ただ……」

「ただ、なんだというの?」


「警備兵に連れて行かれた聖女はどうなっているかな。ひっひっひ。今頃……ああ、俺もあっちに顔を出さないとな。ふひっ」

「ちょっ、お前たちアリシアさんに何をした」


「何ってお前ェ。想像におまかせしとくわ。でも、ま、分かるよな」

「や、やめてくれ。あの人に酷いことをするのはやめてくれ」


「それは、ま、お前次第ということだ。明日、あの聖女に会わせてやるから、一晩ゆっくり考えるんだな」

「くっ」


「あ、そうそう、帝国に出現した勇者はな、今頃ミヨイ王国の王都に着いたころだろう」

「なっ?」


「もう戦争は始まっているんだよ」


 そういうと男は、ボクを天井からの鎖に繋いだまま監獄から出ていった。




 ――深夜


 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。


 何度か寝落ちしては目が覚め、どうしようもない状態を確認してはまた寝落ち。


 ジョロジョロ、シャアアアアア。どうしても我慢が出来なくなりを大量に漏らした。


 スカートがベトベトになり、大量の黄色い尿が太ももとふくらはぎを伝いブーツまでびしょ濡れ。とても気持ちが悪い。



          —— つづく

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?