塔から城壁への出口には見張りがひとりもいなかった。
しかし、城壁の上を魔法少女の目立つ姿を晒しながら歩き回るわけにもいかないので、このまま外には出ずに地上出口を目指した。
螺旋階段の一番下まで降りてきた。すると見張りの男が二人いた。
二人とも居眠りをしている。
一人は剣を抱えて、もう一人は口を開けて上を向いてイビキをかいている。
草木も眠る真夜中。眠いんだろう。しかし、見張りがそれでいいのだろうか。
せめて交代で仮眠をすればいいのに。
それともボクが脱出などできるハズもないと、舐められているのだろうか。
見張り二人の横をそおっと猫背で通り過ぎる。
そおっと。
そおっと。
外への扉に手をかけた。
そおっと捻る――
ギィィィィ。錆び付いてる。すごい音が出てしまった。
「んん、なんだ? 交代の時間か……」
「ふぁああああ、あーねみい」
見張りの男たちが目を覚ましてしまった。
まずい、見つかる――
「おい、お前は何者だ!」
「ああっ? なんで魔族がこんな所にいるんだッ!」
剣に手をかけた。
見つかった!
ボクを見て魔族だと言った。
「シノちゃん! ここは僕に任せて!」
そういうとベルンハルトは、見張りの男たちの前にフワフワと飛んでいき、何やら呪文? のようなものを唱え始めた。
「むにゃむにゃもにゃもにゃ……」
何を言ってるのかわからないが、暗い青紫の禍々しい煙が見張りたちに絡みついた。
すると、二人の見張りたちは、目を白目に反転させ、口をだらしなく開いたまま、気持ち悪い笑みを浮かべてその場に倒れ込んだ。
ボクととベルンハルトは塔から脱出した。
真夜中なれど月明かりで外はわりと明るい。真夜中なので街なかは人っ子ひとりいない。
ボクは走った――
月明かりに照らされた静かな街なかを軽快に走り抜けた。
小一時間走って、帝都の中央広場に出た。真ん中に噴水があるが、この時間だからか、止まっている。静かな水面に月が綺麗に映っている。
ここまで来たのはよいけれど……アリシアさんが捕らえられている塔は三つのうちのどこだろう。
いや、考えてみたらこの広い帝都……もし塔にいなかったとしたら見つけられるかどうか。
「ベルンハルトどう思う?」
「えっ? 場所なら分かるよ! 南側の塔のてっぺんにいるね」
「……!」
どうして分かるのだろうか。考えるだけ無駄か。なにせこいつは淫獣。きっと酷い目にあっている女の子の気配とかで場所がわかるのだろう。
「さすが淫獣、アリシアさんの匂いでも感じたの?」
「君は、ホントにびっくりする程に失礼だなぁ」
「言ったよね? 僕は上位魔族の使い魔だって」
「そうだっけ」
「それに君と契約した時のように、酷い目にあって絶望している人間の弱みに付け込んで契約をせまる為に、そのような感情を遠隔地から嗅ぎ取る能力に長けているんだよ」
やっぱり! さすが淫獣。弱みに付け込んでとか言っちゃってる。
「と、いうことは……アリシアさん、いまかなり危険な状態?」
「今というより、警備隊の連中に拷問でもされた後かも? とにかくアリシアさんの絶望感がはっきりと分かるレベルでダダ漏れになっている」
「行かなきゃ! 早く助けに行かなきゃ!」
「まぁ、気持ちは分かるがあまり目立つことも出来ないので静かに南の塔に向かおう。今のところ、アリシアの精神状態に振幅はないから、今は吊るされているだけだろう」
それにしたって、早く助けたい。
―― つづく