失禁してその場に倒れ込んだ見張りたちを横目に、南の塔内部の狭い螺旋階段を登った。
すると、ここでも城壁側出入り口があり、そこにいた見張り兵と遭遇。
座り込んでいるものや剣の素振りをしているもの、居眠りをしているものなどおよそ十人はいる。
どうやら警備隊の暇な連中も、ここに集まっているのかもしれない。聖女目当てか?
繰り返しになるが、やはりここでもボクを見るなり「魔族がきた」と騒ぎ立てる。
「魔族だ……ほんとうに魔族が来た……」
「おい、誰か隊長を呼んでこい!」
やはりここに隊長が来ているようだ。早くアリシアさんの元に行かなければ。
「お願い!おとなしくここを通してッ!」
魔法のステッキを振りかざし、今度はおかしな魔法が出ないように、慎重に「お前たち、ここで眠れ」という少しマイルドな思考で、魔法を発動させてみた。
すると、どうだろう……ああ、またしてもピンク色のモヤが出てきた。はぁ。たちまち見張り兵たちを、妖しいピンク色のモヤが包みこんだ。
「うあっ……なんだ、これは!?」
「お、おで、もうたまらんくなってきた」
「あの魔族、なんだかとっても助平だ……」
「……ごくり」
ちょっ! なんか気持ち悪いことを言いながら、ふらりふらりとボクの方へ近寄ってきた。
「ひいっ」
またしても淫夢魔法が炸裂したようだ。
「ああああっ」
しかし今度は、身体をガクガクと震わせながら膝からくずれて、みんな倒れてしまった。失禁はなしか?
ところが一人、ひと際異彩を放つ大男が、のっしのっしと近づいてきた。
「おれにはこんなもの効かぬわ〜」
えっ、淫夢魔法が効かない、だと? じわりじわりと近づいてくる。手を伸ばしてボクの髪をつかんで引っ張ってきた。
「ひぃぃぃぃぃ、やめて!」
ぐいぐい引っ張りつつ、壁の方に押し付ける。まただ。こいつらみんな股間に膝を押し付けてきやがる。
「はぁはぁはぁ、苦しい……」
「シノちゃん! もう一発魔法を発動させるんだっ!」
ベルンハルトが叫んだ。
「ぐぐぐぐ、う、うごけない……ベルンハルト……たす、けて」
執拗に股間に膝を押し付ける大男。その上、髪を引っ張って今にも千切れそう……。
「もう、しょうがないなあシノちゃんは。もうちょっと本気だしてもらわないと……」
そんなことを言ったって、まだどんな魔法があるのかもさっぱりわからないというのに、ひつじのツノのクマのぬいぐるみが勝手なことを言う。
「むにゃむにゃもにゃもにゃほにゃらら……」
西の塔で見せた薄気味悪いベルンハルトの魔法の呪文詠唱が始まった。
暗い青紫の禍々しい煙がベルンハルトの口から「だばぁ」と出ていた。空気より重いのか、床に向かってどんどん流れるように出てくる。
「ぎゃああああ」
ベルンハルトの口から出た禍々しい煙が、大男に絡みついた。
これは効いているようだ。大男はもがき苦しんでいる。床に倒れ込んで、右に左にゴロゴロと転がり、ついには気を失った。
そして大量の失禁である。
「もう、また失禁なの?」
「ここの警備兵は、おもらしばかりだなあ。普通、淫夢魔法をかけられた男は、しゃ……げふんげふん」
「いまなんか性的なことを言おうとした?」
「僕は紳士なので、そういうことは言わないことにしているんだ」
「まあいいや。早く塔を登ってアリシアさんのところに!」
「そうだね、急ごう」
*
塔の最上部の牢獄にたどり着いた。
ぎぃぃぃぃぃ。
入口の取っ手をひねってドアを開けると、入口から反対側の奥に粗末な机があり、そこには西の塔でボクに色々と尋問してきたあの警備隊の隊長と、さっき二人の見張り兵がここに登っていくのが見えていたが、その二人が、何か話をしているようだった。
入口からみて左側の壁でアリシアさんが、くさりで両手を釣り上げられたままぐったりしていた。
「あっ、お前……西の塔から逃げてきたか。しかも淫魔になって……魔族の使い魔と契約したか……」
「隊長、こいつが王国に転移召喚した勇者なのですか?」
「元勇者、な」
この隊長、なにか知っていそうな感じだ。
「ポイズン!」
ベルンハルトが突然、そう叫ぶと口から、青紫の毒々しい液体をぴゅっと発射した。それは見事に隊長と警備兵二人にぶっかけられて、三人とも一瞬で気絶した。
「んなっ!?」
ボクがあっけに取られていると、ベルンハルトが得意げに言った。
「即効性の気絶魔法さ。殺してはいないからシノちゃんは気にしないでいいよ」
「そういうのがあるなら、塔の下で使ってよね」
「もう何度でも言うけど、これはシノちゃんのためでもあるんだからね。少しでも実戦で魔法が使えるようになっておかないと……」
「そうね……そんなことより、アリシアさん!」
アリシアさんは、聖女のローブを脱がされ下着だけで、びしょぬれになっていた。
床もびしょびしょ――
尋問で、水攻めと言葉責めを受けていたようだ。かなり衰弱している。
いや失禁か。アリシアさんも我慢の限界を超えて放置されていたんだろうか。少し汚臭もする。
まさかアリシアさん、凌辱されたのでは……。
「うーん、この聖女、この有様のわりには精神的にはちっとも参ってないみたいだねえ。僕と命の契約をするに値しないかな――」
「えっ、さっきはアリシアさんの感情……絶望を感じとって、ここがわかったようなことを言ってなかった?」
「いや、確かに苦痛やら悪感情はキャッチしていたけど、絶望していたって程ではなかったよ? ちょっとでも困っている女の子の感情なら敏感にキャッチできるのが僕の得意とするところ」
「うーん、淫獣……」
「ほんと君は失礼なやつだなあ」
魔法少女の「想いの力」でアリシアを回復させられないか、試してみることにした。
「元気な頃のアリシアさんを思い出して! そして、また元気になって欲しいと心の底から願って! それで彼女を回復させられると思うよ」
「よおし! アリシアさん、いま回復してあげる」
―― つづく