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15 帝都脱出、勇者の足取り

 聖女アリシアさんは南の塔の牢獄にて、どのような尋問を受けていたのだろう。下着姿でびしょびしょになっていた。

 かなり疲労困憊ひろうこんぱくしている様子。


 ボクが助けるんだ――


「アリシアさん――」


 力の限り想いを込めて、魔法のステッキを両手で握りしめた。

 アリシアさん、一緒に旅をしたあの元気で優しいアリシアさん――


 魔法のステッキの先からまばゆい光が溢れ出した。今度は淫夢魔法ではない。黄色く、とても神々しい光。


 しゅううっと光がステッキの先に集まり、回転を始めた。その直後、シャキーンという甲高い音とともに丸い輪っかが出現した。


「えっ? こ、これは天使の輪?」


 まさに天使の輪のような白く輝く輪っかだ。

 それがぐったりしていたアリシアさんの頭上に移動した。そして光のシャワーが頭上から足先まで汚れを洗い流すように降り注いだ。


 アリシアさんの細い腕を拘束していた壁からの鎖もはずれ、首輪もパカッと開いて落ちた。


 薄汚れた下着も新品同様の純白になり、びしょ濡れの身体も綺麗に乾いた。


 長く綺麗な金髪もふわっと広がり、汚臭が漂っていた牢獄内が爽やかなアリシアさんのいい匂いで満たされた。




「ん、んん……」

「アリシアさん!」


 気がついたようだ。天使の輪と光のシャワーが次第に消えていった。


「こ、これは一体……」

「よかった……」


「あ、私は警備隊長に尋問されて……気絶していたのね」

「よかった。アリシアさんよかった」


「あっ、あなたは……」

「ボクです、髪がピンク色になっててツノがありますけど、ボク、シノヤマですよ、アリシアさんッ!」


 髪がピンク、それまで来ていた魔法使いの服ではなく、ファンシーなピンクと白のふわふわな女子服に、青紫のマント。そしてツノ。パッと見、わからないのは当然だろう。しかし声と背丈はもとのままだ。


「シノヤマ……さん、なの? あなた、魔族と契約を……」

「いや、いやいやいや、契約なんかするつもりじゃなかったのだけれど、この淫獣が勝手に……」


「まぁたシノちゃんったら、あんなに懇願したくせにぃ」

「してないっての」


「まぁいいわ。その淫魔少女の扮装についてはあとで教会でどうとでもなるから」

「えっ、そ、そうなの?」


 しかし、アリシアさんまでボクの事を魔族扱い……やっぱりこの格好は……。


「大丈夫よ。王国教会はわりと万能なのよ。それよりそこの警備隊長が入っていたのだけれど、剣聖モリクボが行方不明らしいのよ」

「な、なんですってぇ?」




 アリシアさんの話によると、どうやら帝都警備隊は、剣聖モリクボの消息がわからなくなっているらしい。


「それで、執拗に警備隊長に尋問をされたの。『おまえらが剣聖をかくまっているのだろう』と」

「どういう事なの。ボクが聞いていた話と違う」


 警備隊長は、港町で剣聖モリクボに会ったときに、かなりしつこく帝国側に寝返るようにつめよったらしい。それでも剣聖モリクボは……おそらく転移召喚で出現したばかりで何もわからなかったのか、魔族の襲来で戦ったあと、姿を消したらしい。


「王都に攻め入ったという話は、おそらくシノヤマさんを帝国側に引き込むためのブラフでしょうね。そういうことをやる連中だから」

「すると、モリクボ先輩はまだ港町に?」


「その可能性はないかもしれない。帝国騎士団やら警備隊やらが、港町を散々調べたらしいから」

「そうですか……」


「でも、港町は全滅していないようですし、『ヨシムラ村』で冒険者パーティに聞いた噂話も気になるところよね」

「行きましょう! その港町へ!」




「と、その前に……その淫魔少女の扮装はなんとかしましょう。さすがに目立ちすぎます」

「ベルンハルトぉぉ。これ元に戻るにはどうしればいいの?」


「簡単だよ、『変身解除』とか『変身おわり』とか、そんな感じのイメージを頭の中ですればすぐに元に戻るよ」


 ボンッ!


「きゃっ!」


 ピンク色の煙がぶわっと出ると、ボクの身体は、素っ裸になっていた。


「いやぁぁぁぁん」


「しょうがないわね、私も純白の下着だけだし、まずは服を着ましょうか」


 アリシアさんが、取り上げられていた自身のカバンを警備隊長らがいる机の上から取りかえし、中から予備の服を出した。


 あれ? こんなに小さなカバンに服がどっさり。

 アリシアさんがいうには、アイテムボックスという魔道具で、カバンの中の空間は圧縮されるらしい。それでも圧縮には限界があって、六人乗り馬車のワゴン一杯分くらいの荷物が入っているとか。


 早速魔法使いの冒険服を出してもらい、着始めた。

 ボクは昔から素っ裸のとき、下着より靴下を先に履くクセがあり、いまもすっぱだかの状態からいきなりブーツから履き始めた。


「ふふふ……」

「どうしたんです? アリシアさん」


「いえね、シノヤマさん、あいかわらず毛深くて、なんだか安心しちゃった」

「やめてくださぁぁい」


 今後は、股間丸出しでいきなりブーツを履くのはやめよう。


 ボクたちは帝都から南へ、帝国の辺境にある港町へ向かうことにした。当然、警備兵たちはそのままで。



          ―― つづく

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