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16 辺境の港町

 夜がまだ開けぬうちに帝都南側城壁の門から外に出た。


 城壁や結界に守られていない、夜の街道を歩くのは魔物に襲われる危険があるが、帝都内も同じだ。他の警備兵に見つかっては面倒だ。


 だが東の空が少しづつ明るくなってきたので、すぐに帝国の南の辺境のある港町「グレンツハーフェン」へと向かった。


「ところでベルンハルト……さん? さすがにそのツノでプカプカ浮いていられると、目立ってしょうがないですわね。何とかならないかしら」


 ベルンハルトを見ながらアリシアさんは困り顔になっていた。


「そうだねえ、魔族が暴れた後らしいし、このまま港町に入ったら、モリやヤスで滅多刺しにされちゃうかな? ま、そんなの僕には痛くも痒くもないけどね」


「私たちも魔族扱い受けたら困るんですけどね」

「ああ、そういうことね。じゃあ……えいっ!」


 ボゥン!


 青紫の煙をまき散らし、ベルンハルトは人間の少年の格好に変身した。


 褐色の肌に黒のぴちっとした服。執事かな?

 背丈はボクとあまり変わらない感じだ。十二三歳位の少年に見える。


「へぇ、なかなかの美少年に化けたわね。いいじゃない」

「へっへっへ、僕は優秀な使い魔だからね」


「生まれついての使用人って感じ?」

「シノちゃんはホント失礼だよね」


   *


 帝国を南に伸びる街道を半日程歩いただろうか、日が高くなってきた。少し汗ばんでいる。


 いつの間にか緩やかな登り傾斜の道になっていた。少し小高い丘の上まで道を進むと、遠くに海が見えてきた。

 潮の香りのする涼しい風が、ボクたちの頬を優しく撫でる。


「あー気持ちいい」


 そう言いながらアリシアさんが長い金髪をかきあげていた。


 小高い丘を伸びる街道をさらに進むと、ボクの背丈の三倍ほどの高い木の柵で先に進めないようになっていた。街道もそこで行き止まり。


 ただ、厳重な門扉がある。


 迂回しようにも、街道からかなり先の方まで柵が張り巡らされていて、どうやらこの門扉以外に町へ入る方法はなさそうだ。


「お前ら、この町に何の用だ?」


 門扉の横の通用口らしき小さな戸が開き、中から槍を持った男が出てきた。ただ服装も地味な茶色のシャツとズボンで防具もないところを見ると兵士ではなくただの町民のようだ。


「私たちは、ミヨイ王国登録の冒険者です」

「冒険者だあ? その冒険者がこの町に何の用があるというんだ」


「この町で魔族や魔物を退治したと、冒険者の間で噂になっている剣聖モリクボの行方を追っているのです」

「剣聖モリクボさまの行方……だと?」


「そうです。噂の元になっているここにくれば何かわかるかもと思い……」

「ミヨイ王国の冒険者といったが、その格好は聖女……さま? もしかして転移勇者探索をしているのですか?」


 すると通用口の奥からもう一人町民らしき男が近づいてきた。


「もしかしてあなたはアリシアさまでは?」

「久しぶりですね、ハンスさん。教会の皆は無事でしょうか」


 事情はわからないがどうやらアリシアさんは、ここの町民と面識があるようだ。



          ―― つづく

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