目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

19 新たな魔法少女

 その魔族のリーダーとおぼしき小柄な男は、左手を腰に、右手の平を上にむけ、何やら呪文のようなものを唱えている。


 はっきりとは聞き取れないが何かをボソボソと呟いているようだった。

 魔族のリーダーの先制攻撃。クボちゃんに向かって右手で作り出した赤黒い炎の塊を飛ばしてきた。


 剣聖クボちゃんは手にした木の枝を片手で振るった。するとその木の枝はたちまち、青白い光をまとった輝くロングソードとなった。


 その一太刀で衝撃が走り赤黒い炎を左右に引き裂き、散らした。


「ぐぬぬ、人間の分際で!」

「行けっ! あいつらを捻り潰してしまえ!」


 魔族のリーダーは、次々と魔物たちに攻撃を仕掛けるよう指示を出した。岩石ゴリラとヌルヌル触手イカが、剣聖クボちゃんに向かって襲いかかっていく。


 シュパッ、シュパシュパシュパー。


 剣聖クボちゃんは、涼しい顔で木の枝を振るい、魔物たちを次々と薙ぎ払っていく。その一挙手一投足は、まるで舞を踊っているかのようだ。


「フッ、これがあたしの『もう無理流剣術』よ」

 クボ? さんがなんか言っている……。


「シノちゃんも魔法で攻撃だ!」

 ベルンハルトが叫んだ。

「よぉーし!」

 攻撃、攻撃……どんな風に考えればいいのか、うーん。


「あの魔族を大人しくさせて!」

 両手で魔法のステッキを握りしめ思い切り力を込めた。力というより思考を集中!


「またなんともたよりない思考だなぁ」

 ベルンハルトは少しあきれたような顔をしながらそういった。でも仕方ない。ボクはこういうの苦手なんだよね。


 するとピンク色の光の粒がしゅうううううっとステッキの先に集まってきた。

 ステッキの先がブルブルと大きく振動を開始したかと思うと、パウッと破裂音とともに、巨大なピンク色の光の玉が発射された。


 それは一直線にピンク色の煙を後方に撒き散らしながら魔族のリーダーに向かって飛んでいく。


「何だその気持ち悪い魔法は!」


 魔族のリーダーは、その光の玉を両手で受け止めようとした。


「お"ほっ、おおおおおお?」


 しかし、光の玉が触れた瞬間、リーダーの身体はみるみるうちに溶けていき、ピンク色の煙になって消えてしまった。


 そして、なぜか広場中に甘酸っぱいイチゴミルクの香りが漂った。これはあの魔族成分が溶けた匂いか? なんだか気持ちわるっ。


 魔族のリーダーが倒れたことで、魔物たちの動きが止まり、そのまま霧散していく。


「やった! ボクたちの勝ちだ!」

 喜んでステッキを掲げると、その直後、背後から悲鳴が聞こえた。


「きゃあっ」


 振り返ると、アリシアさんがちぎれたイカのような魔物のぬるぬるの足でぐるぐる巻きに締め上げられていた。


「はぁはぁ、ん"っ……、はぁ……」


 ぬるぬるの粘液まみれのアリシアさん。なんだか顔が真っ赤になって息が苦しそう。


 剣聖クボちゃんと、魔物のリーダーへの攻撃に気を取られている間に、倒したはずのちぎれたぬるぬる触手がまだ動いていて、不意打ちを食らったようだ。


「アリシアさん!」

 駆け寄ると、アリシアさんの身体はかなりうっ血していた。かなり強く締め上げられているようだ。


 ボクと剣聖クボちゃんで、なんとかぬるぬる触手を取り払おうとするも、ぬめぬめの体液が邪魔をしてうまくいかない。


「嘘……回復魔法を……」


 魔法のステッキを掲げ、光のシャワーを浴びせかけるが、戦闘モードの魔法少女には、回復魔法の効果が薄いようだ。


 ただ、触手の方は浄化されたようで消滅した。しかしアリシアさんの身体は……。


「シノちゃん、その魔法少女の格好のまま回復魔法を使っても、回復力はいつもの十分の一だ」

 ベルンハルトが冷静に言った。


「そ、そんな!」

「シノヤマさん、大丈夫。私のことは気にしないで……」

 アリシアさんが震える声で言った。


「アリシアさん、諦めないで!」

 ボクは叫んだ。

「ねえ、ベルンハルト。なんとかならないの……」


 すると、ベルンハルトは少し間をおいて提案してきた。

「アリシアさん、聞いて。このままでは、君は死ぬ。僕と契約して、魔法少女になれば、助かるかもしれないよ」


「えっ……?」

「そうすれば、君は魔法少女として変身する際に、回復魔法が発動して傷も癒やされるだろう」


 ベルンハルトの言葉に、アリシアさんの目が大きく見開かれた。


「ベルンハルト……さん。私は……」


 アリシアさんが途切れ途切れに話すが、ベルンハルトは続けた。

「早く回復させないと体力が持たない。どうする?」


 アリシアさんは、ボクの顔をじっと見た。そして、震える声で言った。

「シノヤマさん……私、まだあなたに話したいことが山程あるの……この世界での元日本人の……うっ」


 アリシアさんが少し目を閉じ、そして大きく見開いた。


「わかったわ、ベルンハルトさん。私、あなたと契約します!」

 アリシアさんは、そう言うと、ベルンハルトに手を差し出した。


 ベルンハルトがアリシアさんの手を取ると、彼女の身体が青白い光に包まれた。ボクの時と同じだ。契約をするという意思のみで発動するみたい。


 光が消えると、そこには、白いセーラー服のような襟の服に、黄色いマント。そして下半身は、水色のレオタード姿になったアリシアさんが立っていた。きっとコンマ五秒で変身したのだろう。


「ひゃああああっ!?」


 アリシアさんは、自分の身体を見て悲鳴を上げた。

 そして自身の頭に生えたツノに手をあて、ぶるぶると震えている。


「レオタード!? ちょっと、なんで私こんな格好なの!? しかもツノまで……」


 剣聖クボちゃんは、きょとんとした顔で、その光景を眺めているだけだった。



          ―― つづく

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?