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20 ゴンドーラ遺跡探索隊から

 アリシアさんの回復を図るために、ベルンハルトとの契約による魔法少女変身時の身体リフレッシュ機能を利用した。


 一先ずはアリシアさんの身体に問題は残ってないのを確認すると、変身を解除した。というよりアリシアさんが元に戻りたがっていた。


 変身が解けたあと、アリシアさんがぐったりしながらも立ち上がる。


 ボクは駆け寄った――

「大丈夫ですか? アリシアさん!」


「はぁ……死ぬかと思ったわ。でも……」

 アリシアさんはぶるっと身震いして、顔を真っ赤にしながら叫ぶ。


「もう二度とあんな格好になるのはごめんよ!  無理! 絶対無理なんだからぁ!」


 ベルンハルトは肩をすくめながら、にやりと笑う。

「いやいや、君には素質があるんだよ。立派な魔法少女さ」


「認めない! 絶対認めない!」

 必死に否定するアリシアさん。


 その横でボクが、

「いやぁ……でも似合ってましたよ?」

 と呟くと、アリシアさんは更に赤面。

「似合う似合わないの問題じゃないの!」


「うーん、僕には分からないなあ、純白下着の時はまったく恥じらいがなかったというのにねぇ」

 ベルンハルトの淫獣的ツッコミが炸裂する。


「やめて! 余計に恥ずかしい!」

「ふむ……照れるところがもう素質ありだな」


「いい歳して、セーラー服にレオタード、それもハイレッグなのが無理なのよう。

 私は聖女アリシアよ! 人々に祈りを届ける存在なの! あんなハイレッグ姿で人前に立てるわけないでしょう!」


「あ、そこなの……」


 ベルンハルトは、両手の平を前に向け、「やれやれ」といったポーズで少し呆れていた。


   *


「ところで、剣聖……クボさん?」

「はいはーい、なんですか? 聖女さまっ」


 妙に明るいテンションのクボちゃん。


「あなた、転移召喚勇者ですね。日本から来た……」


 アリシアさんがそう聞くとクボちゃんは、

「転移とか召喚勇者とかはよくわからないんだけど、高校で剣道の練習試合をしていた時、竹刀が急にまぶしく光ったかと思ったら、この港町にいたの」と、答えた。


「話し方がとても女の子っぽいけど、あなた日本にいた時は女の子ね」

「そーなの、あたし『久保のり子』っていうの。

 あのね、聞いて! 光が消えて気がついたら、あたしすっぱだかで港の桟橋のところに仰向けで倒れていたのよ。股間丸出しで! 見慣れない棒が気になったのだけど、その時はそれどころじゃなくって……」


 あ、やっぱりすっぱだかなんだ。ボクはまじまじとクボさんを眺めた。


「それでね、いきなり気持ち悪い魔獣? とかが町に一杯やってきて。空から海から、町の境界の森の中から……」

「魔族魔物の襲撃ですね――」


「で、無我夢中で、桟橋に転がってた小さな木片を手にとって、近づく魔物に向かってそれを振ったの。そう、剣道の竹刀のように。そしたら……」


 あとは、噂通りの事が起こったようだ。そうやって久保さんは、ピンチを乗り切ったんだ。


「ところで、久保……さん。あなた国中、いや、隣国の王国にまで噂が轟いているのよ。えっと、剣聖モリクボって」


「えっ……?」

「えっ?」


「あーそれ、あたしの口癖なんだけれど、よく『もー無理ぃ』とか『むりむりむりぃ』って連呼しちゃうの。

 その魔物を剣で薙ぎ払っていた時もずっと『むりーむりー』って叫んでたのね」


「まさか……」

「気がついたら、町の住民たちからは『剣聖モリクボさま』と呼ばれるようになってたのよ」


 なんということでしょう。どうやら「剣聖無理久保さま』が、噂が流れていく過程で伝言ゲーム的に内容が変わっていき『剣聖ムリクボさま』、『剣聖モリクボさま』と訛って伝わっていたようだ。


「なんだそりゃあぁぁぁ?」

 ボクは顔面蒼白になって叫んだ。


 じゃあ森久保先輩はどこ? まさか人知れず、どこかの壁や岩なんかの場所に召喚出現して……。


   *


 そんなとき、西の遺跡、ゴンドーラに探索にいってたメンバーから連絡が入った。


「聖女アリシアさま!」

「あっ、あなたは……レベッカさまじゃない。どうしたのこんなところまで来るなんて」

 アリシアの同僚の聖女レベッカさんというらしい。先のゴンドーラ遺跡探索の旅に同行していたはずなのだが。


「アリシアさま、大変なことが……。ゴンドーラ遺跡に到着し、我々調査団の一行は、まず入口付近にベースキャンプを設営した。

 そして、準備が整ったところで遺跡の奥にあったダンジョンへと足を運んだ。

 第一階層は、完全にもぬけの殻で魔物の気配も、残されていたであろう宝箱も全てからっぽ。なにもめぼしいものもなく、隠し扉も隠し部屋、さらには祭壇も何もない状態だった」


「レベッカさま、相変わらず話が長いですわね。一体何が大変なのです?」


 確かに要領を得ない。結論から話せとは言わないが、どうにも物語の序章でも語っているみたいなノリ。


「失礼しました。かいつまんで説明しますね――」


 と、いった舌のかわかぬうちから、べらべらと物語が続く……。


 どうも遺跡奥のダンジョン第二層で、探索中の他の冒険者パーティに遭遇し、そのメンバーに「長い黒髪の女性」がいたとの事。


 それも話を聞くと、ボクが王都の大聖堂に召喚された日と同じ日に、遺跡近くの街道で倒れていたらしい。すっぱだかで。


 その冒険者パーティのリーダーがとても面倒見のよい人で、その黒髪の女性に衣服をあたえて、とりあえず冒険者パーティの荷物持ち兼料理番として同行することになったらしい。


 いくら人気のない西のはずれの街道とはいえ、野生の魔物や、盗賊の野郎どもに何をされるかわかったもんじゃない。すっぱだかだし。


「それでですね、私も実際にその女性とは話をしたんですが、どうもやはり日本からの転移召喚で街道に倒れていたらしいの」


 これはもしかしたら「森久保先輩では?」とシノヤマが浮き足立つ。

「名前は? 名前は聞いたんですよね?」


「それが一部記憶に混乱が生じているようで、名前を思い出せないようなんです。ただ……」

「ただ……?」


「みための性別と、話っぷりから想像するに、日本で女性、こちらに転移召喚されたあとも女性……つまり『なりそこない勇者』であることは間違いありません」

「これはいけない。私たちも急いでゴンドーラ遺跡に向かいましょう!」

 アリシアさんが、ボクにそう言ってきた。


「はい。ここに森久保先輩がいないとわかった以上、ここに長居は無用ですね」


「久保さん、あなたも一緒にいきましょう。同じ元日本人。ここは行動をともにしたほうが安全だと思います」


「はいはーい。あたしもそのほうが嬉しい。ところでまともな服とかないですか? さすがにこの小さい布切れ一枚じゃ、股間がスースーしちゃって落ち着かなくって」


「そうですね。さっきから股間の棒がチラチラ見えていますし、よくないですね」

「いやぁぁぁぁん、アリシアさんの助平!」

 久保さん、明るいなぁ。見た目男で、この言動はちょっとアレだけど。


 そしてボクら一行は、急いで王都に戻り、支度を整えて西のゴンドーラを目指すことになった。



          ―― 第二章 完 ――



 次章

「第三章 古代魔法技術王国」 に続く――

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