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22 海沿いの宿屋にて

 帝国内南部の裏街道、海岸沿いにある「ナナツハマ村」

 この村への入口付近にある木造二階建ての宿屋、そこが今夜の宿だ。


 小さな村の小さな宿の割に、今夜は結構客がいて盛況だ。

 それは隣の港町「グレンツハーフェン」での魔物襲来が原因だろう。


 魔物討伐とその魔石や素材回収を目当てに各地から冒険者が集ったようだ。


 最近はあの港町以外に大きな魔物襲来もなかったようで、どの冒険者たちも、その腕を振るう機会があまりなかったようだ。


 宿内の食堂を見回すと冒険者パーティが三組、それぞれのテーブルで食事をしている。

 奥のテーブルに四人、そこから左に五人のパーティ。


 そしてボクたちのすぐ横にもう一組いて、武闘家に剣士に魔法使いの三人。少人数ながらバランスのよさそうなパーティだ。




「またグレンツハーフェンで魔物が出たらしいよお?」

「明日また行ってみるか――」


 武闘家っぽい三つ編みおさげの小柄な女の子とリーダーっぽい若い青年の剣士が、手にした肉を食いちぎりながら楽しそうに話をしている。


「あそこに出る魔物は弱いくせに、いい素材と魔石が取れるからおいしいんだよな」

「それに大量に湧いてくる。まとめて始末できるのが非常においしい」

「それなー」


 どうやら隣の冒険者パーティは、港町の魔物の話をしているようだ。


「ちょっと話を聞いてみたいですね」とアリシアさんは隣のパーティに近づいた。


「あのー、ちょっとよろしいかしら――」

「あーっ! あなたヨシムラ村のギルドにいた聖女さま?」


「あなた、あの時の……王国教会の聖女アリシアです」

「あっちにいるのは、あの時の魔法使いさん?」

「どうも、魔法使いシノヤマです」

「あたし武闘家のシャオメイね。武者修行中なんだ。よろしくー」


 なんとヨシムラ村で話をした冒険者パーティだった。


 アリシアさんは帝国内で起こったアレコレを話しはじめた。


「聖女さま達も港町に行ったんですね。じゃあ剣聖に会えた?」

「ええ」


「どんなだった? やっぱイケメン? いやぁぁぁん、あたしも会いたいなぁー」

「そこにいますよ」

「えっ?」

「あの大男ですよ」


「でも聖女のローブをまとっているけど?」

「――ほとんど素っ裸だったので、私のを貸しているのよ」

「ええええ!」


「はいはーい! 剣聖クボちゃんですよー!」

 身体を華麗にひねらせて、ぶわっと聖女ローブを脱ぎ捨てて上半身ハダカになった。


「がぁーん! 噂のイメージと違うぅ」

 シャオメイさんは、がくっと脱力してがっかりした様子。


「えぇー? なんなの? あたしはあたしよ?」

「だって、喋り方が『オネエ』じゃないですかーやだー。折角イケメンなのに……」


「ひっどーい。あたしだってこの身体、好きじゃないのよ。確かに強いんだけど……」

「どういうことなの? なんだか女の子と話をしているみたいな感じがする」


 この冒険者たちは転移召喚勇者の話は知らないようなので、クボちゃんの存在は不思議に感じるのだろうね。




 食事を終え今夜の寝床に移動する。狭い宿ゆえ、そうそう空き部屋もないだろうと思っていたが二部屋確保できた。


 つもる話もあるのだろう、聖女仲間のアリシアさんとレベッカさんは、二人で一つの部屋に泊まることに。


 ボクとベルンハルト、そしてクボちゃんは一緒の部屋になった。ボクだけが女の子で、あとの二人が少年執事の格好をしてはいるが淫獣のベルンハルト。そしてもう一人が逞しい長身で大男の剣聖クボちゃん。あえりえなくない? 貞操の危機じゃない?


 まあクボちゃんは中身が女子高生だから大丈夫か。




 クボちゃんが遅くまで恋バナをしてきてなかなか眠らせてくれなかった。さすが中身は女子高生といったところか。


 眠気に耐えかねてボクが横になると、クボちゃんは今度はベルンハルトと話しはじめた。


「ねえねえベルンハルトちゃん、あたしもシノちゃんやアリシアさんみたいな魔法少女になりたいなぁ」

「――クボちゃん、今のままでも十分強いから契約して魔法少年にならなくていいんじゃない?」


「えっ、ちがくて。魔法少女なりたいなあと。こんな大男でいくら強い褒められてもあたしは嬉しくないんですけど。もい男とかありえないんですけど?」

 クボちゃんが契約したいと懇願するも、ベルンハルトは飄々とそれをかわす。


 だけどなんだか話が合うようでその後もずっと話をしていたようだ。ボクはもう眠かったのでいつのまにか寝落ちしていたようだ。あの後どんな話をしていたのかはわからない。


 クボちゃんは日の出直前くらいでやっと寝落ちしたようだ。ベルンハルトは……なんか寝てなくない? 魔族の使い魔は睡眠不要?




「シノヤマさん、クボさん、ベルンハルト! おはよう。朝食を食べたらすぐ出発しますよ」

 レベッカさんがボクらの部屋に起こしに来てくれた。

「はーい」

 寝巻きのシャツをまくって腹をボリボリしながら返事をした。


 僕も少し寝不足ぎみだけど、今日も歩かないとな。

 五人での珍道中は、これからますます騒がしくなりそうだった。



          ―― つづく

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