森林地帯を抜け草原地帯を二日程進み、砂漠地帯に近づいてきた。ここからは馬車が使えないので、その手前のギルド支部に立ち寄った。
ここからはラクダに似た大型の獣が馬がわりとなる。
聖女ふたりがそれぞれの獣の手綱をとり、アリシアさんとはボクが、レベッカさんとはクボちゃんが一緒に乗った。
そしてベルンハルトは、ひつじのツノのクマ淫獣に戻ってフワフワと飛びながら着いてくることになった。
この獣は「カディール」という。砂漠の馬とも称されているが、とにかく大きい。先刻まで使っていた馬車と馬を合わせたよりも大きい。人が三四人位は余裕で乗せられる。しかし荷物もあるのでベルンハルトは遠慮したというわけ。
遮るものもない砂漠を、強烈な日差しが容赦なくボクらを焦がす。乾燥しているので汗をかいてもすぐに乾いてしまう。
ボクは魔法使いの大きな帽子で日除けを、聖女さんたちはローブを被る。クボちゃんは砂漠直前のギルド支部で受付嬢に勧められたヴェールを被っている。
暑い。こんな時はアイスでも齧りたいところだが、そんなものはあるはずもなく、黙々と遺跡のあるオアシスを目指した。
ん? まって? ボクは魔法が使えるのだけれど、今までは攻撃のファイヤーボール、回復のホーリーライトニングは試したものの、まだ水魔法は使っていないと気がついた。
「ねえアリシアさん、魔法使いって水や氷を出せないかな」
「そういえば試してないですね。普通の魔法使いはそれぞれ得意とする魔法属性があって、攻撃主体か回復主体かにもよるのね。
転移召喚勇者系魔法使いは全ての属性に適性があると思うので、シノヤマさんなら水も氷も思いのままかも」
「試してみたいですね」
「ここらでちょっと休憩しましょうか」
早速アリシアさんの指導の元、水魔法を試すことにした。
「んー、こうかな? くりえいとうおーたぁー……」
どぉぉん、びしゃあぁぁぁぁ。
轟音と共に上空に大量の水が出現し、砂の地面に激しく落下した。
「うひゃあああ、シノちゃんすっごおおい。冷たくて気持ちいいー」
キャッキャとクボちゃんがはしゃいで喜んでいる。
「ふぅ、これはいいわね。生き返るようだわ」
レベッカさんも普段は表情を変えないが、これにはご満悦。いい笑顔を見せてくれた。なんだレベッカさんも可愛いなぁ。
「やっぱり魔法使い系勇者なだけのことはあるわね。キレッキレの大規模魔法も余裕で使えるみたいね」
と、アリシアさんはメガネのような魔道具でボクのステータスを確認している。
「なにか分かりました?」
そう尋ねるとアリシアさんは、メガネをクイッと指で持ち上げて言った。
「やはり魔法発動による経験値加算は正しく動いてはいるようね。更に
レベッカさんもバッグからメガネ型魔道具を取り出して、ボクの方を観察しはじめた。
「これはなかなか興味深いですね。歴代の魔法使い系勇者の中でも、これほどの能力者はなかなかいないわよ」
クイックイッとメガネを動かす。
「暑さでみんな疲労が溜まっているし、ついでにエリアヒーリングも試してみない?」
レベッカさんなんだかノリノリになってきた。
「いいですねえ。この際だから回復系もやってみましょう」
アリシアさんまで。
「よーし、やってみます」
言われるままに魔法の杖を空に掲げて唱えた――
「えりあひーりんぐっ!」
すると砂の地面にボクを中心とした魔法陣が展開され、それがカディールを含めた、全員が収まる大きさまで広がると、緑色の光輝く粒子が舞い上がった。
シュワシュワシュワと、なんだかメロンソーダの泡が弾けるような音がする中、ボクたちの体も緑色に輝き出す。
「いやぁぁぁぁん、これ、これ、すごいぃぃぃ」
「あっあっ、なにこれ気持ちいい。ああっ」
「おっ、おおっ、おっおっ……」
それぞれがこの回復魔法の効能を表現しようとしているが、なんだか助平だ。
そんな中、淫獣ベルンハルトだけが様子がおかしい。普段
「ああああ、ダメだ……これはダメなやつだ……」
といってフワフワと浮いていた彼は砂の地面に落ちてしまった。
「ベルンハルト!」
ボクは駆け寄った。
「ふぅ、何とか持ち堪えたけどこれはキツイねえ。僕にはシノちゃんの光魔法は毒みたいだ」
「ごめんなさい! まさか使い魔には回復系が攻撃になってしまうなんて……」
レベッカさんがオロオロしながら謝った。
「いいってことよ。これからは僕も気をつける」
*
砂漠のオアシスに到着した――
遺跡はオアシスの西端に位置している。
更にダンジョンは遺跡の北に位置しており、入口の祠は朽ちかけていた。
ダンジョン入口の祠のそばに探索隊のベースキャンプがあった。
テントの前で同行していたも、う一人の聖女が留守番で、冒険者パーティの一人が護衛に残っていた。
――魔法使い勇者シノヤマの余命はあと四ヶ月弱。急げ!
―― つづく