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26 ダンジョン探索隊を追え!

 砂漠を越えてきたボクら五人は、遺跡のあるオアシスに到着した。馬がわりに使っていた大型獣カディールから降りて歩きはじめる。


「着いたの? ふぅ、やっと馬から降りれる」

「あらあら、クボさまはまた馬酔い、いやカディール酔いですか。でも、馬よりは大きいし、揺れもそれ程ではなかったと思いますが」

「レベッカちゃん、車酔いを舐めないでね。ゆったりゆらゆらすると余計気持ち悪くなるんだからぁ。ゔっ……」


 クボちゃん乗り物に弱いんだねえ。あんな強そうな大男の剣士なのに。


「だから僕と契約して魔法少年になればいいのに」

ベルンハルトがいつのまにか少年執事の姿になって、クボちゃんの横を歩いていた。




 遺跡のあるこのオアシスには、泉湧く水辺の他には数本の樹木があるだけだ。

 地上の遺跡は殆どが砂に埋まっていて、所々に建物の残骸らしきものが顔を出している程度。

 なので、ダンジョン探索では定番のベースキャンプをすぐに見つけた。


 そんな中、一際異彩を放って自己主張をしているものがった。ダンジョンへの入口と思しき祠だ。ボロボロでところどころ崩れかけているが、中への通路は大丈夫なようだ。


 そのすぐ横に探索隊のベースキャンプが設営されていた。


「クララさま! 戻りました。その後なにか新しい発見とかありましたか?」


 レベッカさんは、留守番をしていた聖女クララさんを見つけ声をかけた。

 もう一人キャンプに残っていたのが、おそらく聖女さんの護衛だろう。とても大柄な冒険者も一緒にいた。


「あっレベッカさま、お帰りなさい。シノヤマさま、王都で会った時以来ですね。すっかり魔法使い冒険者っぽくなりましたね」

「あのクララさん、それで黒い長髪の女性についてなのですが……」


 ボクがそう尋ねると、クララさんは、静かに語りだした――




「レベッカさまの報告で概ねご存知かとは思いますが、自身の名前を思い出せないようなのです」

「名前以外はどうなんですか」


「話しをしてみたところ、日本についてや、ご自身は学生だったといった漠然としたものは覚えていたようです。あと料理などはそつなくこなしていましたね」

「うーん、森久保先輩っぽいなあ。やっぱり会って確かめないと――」


「今日はもう遅いので一晩ゆっくり休んで、明日の朝ダンジョンに入られてはいかがでしょう」

「そうですね。そうしましょうか」

 アリシアさんは、そういいながら聖女ローブを脱ぎ始め、ラフな冒険者服に着替えた。


   *


 翌朝ボクらは先行している探索隊パーティを追いかけて足早にダンジョンを進んだ。


 一見魔物もいない、隠し扉らしきものも開け放たれたままで放置。中は空っぽだ。とりたてて調べるまでもない、何もない部屋。ダンジョンはもぬけの殻のようだ。


 第一層をどんどん進む。ここらは綺麗なレンガで作られている。

 このダンジョン、かなり古い「迷宮」ではあるが浅い階層は既に攻略しつくされていて迷宮マップも充実している。

 迷う事なく下の階層への階段へたどり着いた。


「ダンジョンっていったら『左手攻略法』やら色々とセオリーがあるのだけれど、こんな感じでは拍子抜けしてしまいますね」

 左手を壁に当てながら誰に言うでもなくアリシアさんは、寂しげに呟いていた。


 階段を下り、ボクら探索隊第二チームの面々は第二階層を進み始めた。


 ここは第一階層とは少し様子が変わり、日干しレンガで通路が出来ている。所々崩れて瓦礫がそこらに散らばっていて歩きずらい。


 この第二階層にもこれといった仕掛けも宝物も、知識の石板やら壁の謎の文字の類も何も無い。


「つまらないなぁ。なんにもないんですねー」

 クボちゃんが、ぶつぶつ言いながら後ろを歩いている。


「古い遺跡ダンジョンですから。遠い昔にここらは探索しつくされちゃってますからね」

 レベッカさんも、少しがっかり気味な声のトーン。

「本命は最下層よ。あそこはまだ未踏。危険な罠や仕掛けがあるかもしれないわよぉ?」


 アリシアさんがフラグをたてつつ、第三階層への階段まできた。


 ――第三階層へ降りると、そこは空気がひんやりとしていた。


 石を積み上げただけのモノがゴロゴロしている。階層を下に降りるにつれてどん雑な作りになっている気がする。


   *


 こんな調子で半日程進み、第十階層まで降りてきた。


 ここは他の階層と違い、壁や床が金属製のもので出来ている。高度な科学文明を思わせる。量産する工業技術も垣間見える。


 さらに下る階段がある。細かいチリが積もってはいるが素材はまったく腐食していたり崩れている様子がない。


 最深部までくると行き止まりになった。


 行き止まりには重厚な扉らしきものがあるが開け方がわからない。

 そもそもが手で開けられるものなのだろうか。


 扉に近づくと、ゴリゴリゴリッと何かが引きずられるような音が辺りに響いた。


 ガッガッガッガッ、ピキーン――


 甲高い音と共に扉が少し開いた。

 近づいて扉に手をかける。見掛けは非常に重そうな扉だが片手で簡単に開くことが出来た。



         ―― つづく

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