第1節 星の運命
サーラが目覚めると安宿の中
ホコリ臭いベッドにほおり投げられていた
めざめたかい?
クレオがサーラに触れる そしてリラを放って寄越した
そして汚い手で 猿ぐつわに 触れる
「王に献上する前に!そうだねー歌ってみな」
サーラがギリと睨む
「このまま安楽の歌でもいいからな」
手が自由だ
サーラは ブンブンと首を振った
「この小娘」
クレオが手を上げる
と……そこへコンコンとノックの音
クレオが 狂喜に満ちる
買い手は多い方がいい!
「ああ大神官様!」
クレオが慇懃に腰を折った
「クレオ殿」
サーラは大神官様の顔を見た
「おお!過去の民!神子様にお引き合わせ出来る」
「神子?」
サーラが くっと睨んだ
「いい目をしておいでだ!そうだね金貨5000で!」
……!……
クレオが舞い上がった
純潔だろうね?
「歌えなくなる」
クレオが ぴくと手を震わせる
味見したかったが……金貨5000
いい商売だ
「売りましょう」
揉み手をする
「お名前は?」
丁重に大神官が聞いてくる
キラキラした美しい目だ
救いかもしれない
サーラです
「おお……なんと美しいお声 」
私 過去世の神子様にお仕えする信徒です
サーラの縄目のある手をさすった
「手荒い目に?」
サーラが 目を背ける
「まさかクレオ殿!あの里にいらっしゃった方ではあるまいね?」
厳しく睨まれて
クレオはだまった
エルクにいらっしゃった?
優しく問われてコクと頷く
あの里の民は 滅びましたが
ルーテルが生きております
「ルーテル!」
サーラがはねる
やはり!
記憶は失っておりますが
傷を負っていて
「今神殿に……」
「行きます!連れて行ってください!」
サーラが涙ぐむ
「クレオ殿!罪科如何程か?テス様にご報告させていただく」
サーラの足にサンダルを履かせると
大神官がサーラを導いた
リラも無事ですな!
よかったよかった……
代わりにクレオに縄をうつ
新たな神子様への無礼!そして里人の命の代価
罪人クレオ
牢につなげ!
廊下で待っていた神官兵に命ずると
サーラを 上等な貴賓用の馬車に案内する
さあ足下ご注意
優しく 雅な足台まで添えて
サーラが乗り込むと
大神官は死者への弔いに歌っては?と笑った
「ありがとうこざいます」
サーラの唇から 鎮魂歌つむがれる
大神官が目を閉じて身を揺らす
流石 過去の民の方
大変に……大変にすばらしい
耳を済ませる大神官
馬車から漏れる声に皆が聞き惚れた
「どなただろう」
貴族の姫様だろうか
町の人々が馬車に頭を下げる
「祝福を――」
大神官様!
皆が深く礼をとった
「大神官様!」
サーラが大神官の手をとった
見ればリュウマチ
サーラが癒しの歌を歌った
すると
腰が悪い老人がたち
大神官の病気は癒された
「ああ奇跡を……」
大神官が手をあわせた
「いえお助けいただいて……」
こちらこそ
値をおつけするようなまねをお許しくださいますかな?
はい!
サーラが 花のように笑った
なんとお美しい!
リンカ様もお美しいがサーラ様
大神官がはらはらとなみだした
リンカ様がご危篤で継承者もなく星が傷を訴えるばかり
テス様は戦争に明け暮れ……
嘆く大神官にサーラが心の安息をと里の店で聴いた明るい歌を歌った
「ああ……サーラ様」
大神官が涙した
お優しい方
祈る大神官
御者がリズムを足でとる
楽しくなってサーラの舞台は彩りを得る
「つきました」
里を出なかったサーラの目に白亜の神殿は美しい
サーラ様……さ……
御者が足台をすえる
とん……と降りると神官兵が最敬礼をした
「ささ……リンカさまに」
大神官が神殿をくぐった
奥の間に進むと
天蓋付きのベッドにうつくしき人が青い顔で横たわっていた
リンカさま……大神官がそ……と耳打ち
過去の民であろう美貌の人は
やわらかく目を開けた
……ああ……
よかった……
手を震わせてサーラの頬に触れた
「……」
ご……
過去世の歌がながれこんでくる
「サーラ?」
「はい」
サーラが手を額にいただく
星の神子としてまもって……
はた……
リンカの手から生命が抜ける
「リンカ様」
どれほど慕われた方だったのか神殿中から嗚咽があがった
「神子様」
大神官が リンカの魂のこもった黄金のリラをサーラへとたくした
それには宝玉がはまり
天窓からの七色の光に照り輝く
「サファイヤです」
神官の1人が
リンカの指輪を託す
深海の青!コーンフラワーの青
美しい指輪は運命の継承と共にサーラに継がれる
「お優しい方で」
大神官様が指を組ませると乱れた髪を整える
1000年守られたびだたれた
1000年!
リンカ様はまだお若いはずのに
神子となり禊をおえられると時がとまるのです
大神官が泣きながらいのった
リンカ様の時代に王室
貴族達に狩られ過去の民が犠牲に
大神官がサーラに土下座をした
どうか!どうか禊をお受けになり
星をお守りください
今こそ過去世の星を
戻す時このままでは星が滅びます
「大神官様」
神官の皆様……神官兵の皆様
私に出来ることなら
「ははーっ」
大神官が顔をあげ
カームとお呼びください神子
カーム様
カームと!
カーム
大事な言葉のように口にすればカームが身を震わせた
恐悦至極でございます
まさしく至宝
「あのカームルーテルに」
「は……お連れして」
神子様のご友人ご丁重に!
「はい」
駆けていく神官にサーラがお願いしますといった
勿体ないです神子さま!
リンカ様に似た丸いお人柄ありがたや!
神官の肩を借りてルーテルの姿!
サーラが座る長椅子に座ると
きょとんとした
神子様ご記憶が……
カームにいわれてサーラが傷だけでもと癒しの歌を歌う
ルーテルは最初こそ不安そうだったが
靄が晴れたように生き生きとしていった
「サーラ!」
「ルーテル!」
2人は抱きあった
記憶が戻るなんて……カーム達が平伏する
「あ……」
ルーテルが長椅子をおりる
サーラ様どうかお傍に
「ルーテル?サーラでいいわ!」
明るく笑い合う2人に神殿が安堵に包まれた
奇跡ばかりだ
カームが 幾度と平伏しサーラの足に口付ける
おゆるしを
何をです
サーラがカームのてをとった
神子様!神子様に祝福を!
神殿は湧いたのである
そして夜までリンカの鎮魂歌が歌われ神殿に葬られたのだった