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第3話 迎え

けれど、今日は何故ここにいるのだろう。

サジタリーは招待客では無いのだ。

勿論王族の方を招待しているが、招待客であった第2王子は挨拶を終え、早々に帰っていった。

「・・・招待状も持たないのに、どう、やって?」

頭が働いていないからそんな、馬鹿馬鹿しいことを真面目に質問してしまった。

「別に難しくない。祝いに来たんだが入れてくれるか?と聞いたらあっさり入れてくれた。一応王子だからな」

「そう、ね。王子、だものね。馬鹿なことを聞いたわね」

「外に出ないか。どうせあの男は愛人の事しか見えてない。君がホールから出ても気にはしないだろ」

吐き捨てる言葉に反論する間もなく、サジタリーはさっさと歩いて行った。

その後を、私はついて行くしか無かった。

バルコニーに出た。

数人の招待客がいたが、サジタリーの顔を見ると少し驚いた表情は見せるが軽く会釈し、それにサジタリーも応えるように会釈し、人気のないバルコニーの端に私達は動いた。

「聞きたいことがある。これは、レンの父君も母君、そして俺の3人で決めて動いている」

「お父様とお母様?聞きたいこと?」

暗がりながらも射抜くような真摯な眼差しで、私を見つめる。

「そうだ」

いつの間にお父様達に会っていたのだろう。

私がホーン様に相手をされていないことは、お父様達も知っているはず。だからこそとても顔なんて合わせられなくて、婚儀を上げてから、一度も帰っていない。

「ザカリ侯爵と過ごして、幸せか?」

「幸せ、よ。それを3人で心配していたの?」

言えないわ、本当の事など。

言葉が詰まらないように、どうにか発する。

「そうか。では、ザカリ侯爵を愛しているのか?」

「・・・そんな事、分からないわ。元々政略結婚なのだから、愛だの、恋だの存在しないじゃない。でも、そうね。幸せ、思ってるのだから愛しているのかもしれないわ」

何故、こんな事聞くの?

何故、そんなに、私を鋭い目で見るの?

「レン。君はこの一年、白い結婚なのだろう?」

「・・・!!」

声が出なかった。

その私の顔を見て、サジタリーはとてもほっとし、微笑んだ。

「その顔が答えなのはわかったが、これは、レンの口から答えて欲しい」

「おや、サジタリー様。わざわざ、私に祝いの為に来て下さったのですか?」

ホーン様の優しい声がした。

「そうですね。久しい友人にも会いたかったので、招待状が無いにも関わらず来てしまいました」

「いえいえ、嬉しい限りです」

「ええ、本当にね。良かったわね、ホーン」

ホーン様の腕に己の腕を絡めカテリナが場違いなくらい元気に言う。

いつも、隣にいるのね。

「レン、答えを」

何故そこまで、その答えを聞きたいのか分からなかったが、ホーン様の横にカテリナが居る。

そうして、目の前に私を真剣に憂慮てくれる、淡き恋心を頂いたサジタリーがいる。

押し潰し、蓋を閉めた感情を表に出してはいけない。

それが、嫁いできた妻としての務め。

けれど、

けれど、

そんな理想通りの一遍通りに行くなら、人間の感情などいらない。

いや、いっそ感情などない方がいい。

そうしたら、

その眼差し、

その言葉に、

こんなにも呆気なく揺れ動く事などない。

いや、既に気持ちは溢れそうだったのかもしれない。だから、些細な言葉という小さな一雫が、引き金となったのかもしれない。

ドクドク、と胸が騒ぎ出し、湧くような感情が、体を支配していった。

「そう、よ。サジタリーの言う通りよ・・・!!」

感情支配されてしまえば、もう吐き出すだけだ。

涙が流れてくる。

「わかった。もう、大丈夫だ」

とても愛おしいにサジタリーは微笑むと、私の腕を掴んだ。

「我々は、これで失礼します」

そういうと、もう、私の腕をひき歩き出した。

「お、お待ちください!我々とは、私の妻をどうするつもりですか?」

ホーン様の慌てた声が、背中から聞こえた。

「明日にはその理由が分かります。では、失礼。帰るぞレン」

「帰る?どこに?」

もうこの家が、私の帰る所なのに、サジタリーは当然のように、手を引き会場の外まで連れていく。

ホーン様の喚きが聞こえたが、当然と言えば当然、追いかけてる様子もなかった。

ホールの中はざわめき、私達を興味深く見比べていた。

「レンが、帰るといえばシュルク伯爵家に決まってるだろう」

そういうと、用意していた馬車に乗せられた。

隣に座ると、ぎゅっ、と手を握ってくれた。

大きな手が安心する。

「皆が待っている。全て任せてくれればいい」

おだやかなこえに、瞬間我慢していた感情という涙が、次から次から溢れてくる。

でも、とても心地よかった。

久しぶりに心から泣いた。


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