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第5話 優しい家族

そんな話しをしていると、馬車が止まった。

「着いたな。降りよう。みんなが待ってる」

繋いだ手のまま、サジタリーは立ち上がったから、私も立ち上がった。

扉を開けると、懐かしい屋敷が目の前に広がった。

「皆、屋敷の中で待ってる」

さっきから皆、と言ってるけど、本当に皆・・・私の事を待っているのだろうか?

風が身体の熱を一気に冷やし、冷静になった。

私は、名ばかりとは言えザカリ侯爵夫人。

サジタリーは私の事を心配してくれているようだが、実際家族は違うかもしれない。

私の侯爵夫人としての立場を、心配しているかもしれない。

白き結婚。

その意味は、ひとつ。

女性としての価値がない、と言うことだ。

そうなれば、ザカリ侯爵家での私の立ち位置も不安定で、ましてや子を成す行為が無いとなれば、シュルク伯爵家の立場もない。

ホーン様だけが悪いのではなく、私に魅力が無いことが、一番の原因かもしれない。

「どうした?」

馬車から降りたものの、足がすくむ。

「・・・わ、たし・・・」

もう、

シュルク伯爵令嬢ではなく、

ザカリ侯爵夫人なのだ。

だから、帰る場所は、ここでは無いのだ。

「手は離さないからな。ほら、皆が待っていると言っているだろ。そんな不安そうな顔をしなくてもいい」

無意識に手を離そうとしていたようで、強く握られ、少し速く歩きだした。

どうしたらいいのか分からず、ただ、引き摺られるように屋敷の中へと連れて行かれた。

屋敷の中に入ると懐かしい召使いの顔ぶれに本当にシュルク伯爵家に帰ってきたのだ、と安堵する反面、不安が押し寄せてきた。

連れて行かれた部屋は家族で食後に集まった談話室だ。

「大丈夫だ」

部屋の前で萎縮する私に、まるで子供を宥めるように穏やかに言われた。

惚れた弱み、とは事のことだ、と痛感する。

サジタリーに言われると全部、信じてしまう。

狡いわ。そんな、自信満々に言われたら、従ってしまうわ。

「ほら、入るぜ」

あえて確認するところも狡い。

無理強いしてない、と確認されてる気分だ。

「・・・わかったわ」

こくん、と息を飲み、諦めて一緒に部屋に入った。

「レン!」

「レン!」

「レン!」

部屋に入った途端、ソファに座っていたお父様、お母様、お兄様が、私の名を呼ぶと、急いで立ち上がり私の側に寄ってきた。

お母様はハンカチで目頭をあて、嗚咽を漏らした。

「ありがとうございます、サジタリー様。レン、少し・・・話をしよう」

お父様がお母様の肩を撫でながら、声を震わせながら促した。

初めて見るお父様の憔悴しきった姿と、そして、まるで涙を隠すかのような行動に、正直、ほっとした。

責められる訳ではないのだ、と。

「言っただろ。皆が待ってる、とな。ほら、座ろう」

そっと耳打ちする声に、肩の力が抜けた。

「・・・うん」

促されるまま、私はソファに座ったが、何故か横にサジタリーが座り、ずっと手を繋いた。

前にお父様、お兄様、お母様が座った。

そして机には、封筒があった。

「お父様。私は何故屋敷に戻されたのでしょうか」

この状況意味が分からずそう聞くしか無かった。

この雰囲気は明らかに、何かを話し合い、団結した空気だった。サジタリーがと皆の話し合い決めた、と言うのは納得出来たが、

でも何を?

と言うよりも、何故家族の中にサジタリーがいるのかも疑問だった。

それも、家族の前で手を繋いでいるにも関わらず、サジタリーはとても幸せそうに私に微笑み、それを見る度に、3人は嬉しそうに微笑んで見ていた。

いや、おかしい。どう考えも、これは異様だ。

恥ずかしいし、それに、私はホーン様の妻だ。それをこんな、たとえ王子であっても、許されない事だ。

不義だ、と言われてもおかしくない状況にも関わらず、何故皆は至極当然かのように振舞っているの?

「サジタリー様、後はお願いしても宜しいですね」

お兄様が、まるで念を押すように強い口調で言ってきた。

いや、おかしい。

お父様でなく何故かお兄様が先に声を発することも、あきらかに、おかしいし、そもそも内容がおかしい。

後は、サジタリー様にお願いしても宜しいですか?

なにを?

この状況では、明らかに私の事しかない。

「勿論です」

即答のサジタリー。

「あ・・・ありがとうごさいます。お願い、いたします」

涙を流しながら言うお母様。

「今回のことは私の事でもありますので、お願いをするべきは、私の方なのです」

「そのお気持ち・・・本当に有難く思います」

お父様も涙ぐみはじめた。

「当然です。後は」

「待って!私に説明してよ!!これは、どういう状況なの!?」

サジタリーの言葉を、悪いけど遮ってしまった。

何よこれ。

私に不都合はなさそうだけど、私の知らない所で、私の話が進んでいる。

それも、これはかなり重要内容で、

それも、黙っていたら勝手に話が進んで、勝手に決められる雰囲気だ。

「そう、だな。では、俺が話そう」

何だか得意げにサジタリーが私を見た。

繋ぐ手が強くなった。


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