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第8話 離縁まであとひと月

「何も動きは無いのか」

家に帰ってから4日後、サジタリーが来た。

応接間に通し、不義の疑いが無いよう、2人きりで会うことなく、召使いを部屋に入れている。

当然かのようにソファに座る私の横に来た。

「明日までがパーティーだし、終わったら礼状を出したりするから、忙しいと思うわ」

いつもパーティーは私が全て仕切り、礼状も手配していた。その私がいないから、大変だろう。ましてや、侯爵になってからは、付き合う人が増えたから、礼状の量も膨大だ。

「だろうな。いい時間潰しになる」

「まさか、それを狙って誕生日に来たの?」

私の横に座っているサジタリーが、少し近づいてきたから、離れた。

「当たり前だろ。離縁の書類は提出してきた。大体ひと月で結果は出る。その間に、向こうから申し開きがあったとしても、ひと月で結果は出される。勿論此方としては、何を言われても覆る事はないが、ごちゃごちゃ言われて気分がいいわけが無い」

それはそうだが、言ってこないわけが無い。そうなれば、カテリナが愛人ではなくなる。言うなれば、単に遊びで子供が出来たと同じだ。下手に援助などすれば、噂好きで人の不幸で遊ぶ貴族達の格好の餌になり、妻へと担ぎあげられるだろう。

だが、悪いがカテリナの家には、ひとつも価値もなく、はっきり言って、負しかない。

そうなればお腹の子供は認知される事もなく、未婚のまま捨てられる。まあ、あの人達はそんな事しないだろう。

あれだけ、カテリナを大事にしている。

けれど、サジタリーの言うように、あとひと月で、婚儀を挙げて1年が経つ。

離縁する期日になる。

「もう少しの我慢だ」

言うと、近づいてきた。

「あ、あのねサジタリー、この間から思っていのだけど、私はまだ、離縁していないの。だから、その・・・あんまり側に寄るのは良くないわ」

とても顔が近くにあり、いつの間にか、腰に手が回されていた。

「知ってるよ。だから、2人きりじゃないだろ?」

「よく言うわ。この間は、部屋にいる召使いに、何かあったら呼ぶからそれ迄掃除でもしてくれ、ってどこかに行かせたじゃない」

つまりは2人きりと一緒だ。

勿論何も無いが、良くないし、どんな噂がたつか分からない。

「だから?」

「だ、たから、こんな事したら、不義として疑われるじゃない。そうなったら、離縁出来ないわ」

ぎゅっと、手を握られるが、全く動じない自信気な顔だ。

体中が、熱を持つように熱くなり、動悸が激しくなる。

手の温もりが全身を駆け巡る。

「ならないな。審議中は、女性は屋敷から出る事を禁じられるのと、女性の身体は白いままでいる。それだけだ。実際、昨日王宮専属医師が、レンが白い婚儀だったと証明しただろ」

「確かにそうだけど」

言われるように王宮専属医師が、その、あまり、いい気分ではなかったが、確認をされた。

つまり、処女幕がある、とちきんと判断された。

「なら、問題ないだろ」

急に顔が近づき、首元にサジタリーの息がかかる。

ぞわりと体が震える。

生暖かい息が、まるで口付けされているような感覚になる。

「父上や兄上は、いっそ既成事実を作ればいい。後はこちらでどうとでもなる、と進められたぐらいだ」

「き、既成事実!?」

「白き身体が前後しても、王族の権力を持てばどうにかなるさ」

甘い声を囁きながら、首元周りで言うから息がかかり、同時に背中を、腰を触られ、力が入らない。

「・・・っ!!」

自分の荒い息と、突いてでる自分の甘い声に、ますます、体が痺れていくようだった。

「まあ、これくらいにしておこうかな。これ以上からかうと俺の方が歯止めがききそうにない」

目を細め、サジタリーが物足りなそうに言った。

「父上や兄上の言葉に乗っかかるのも、俺として釈然としない。書類通り、嘘偽りなくいきたいからな」

「・・・もう」

何度か深呼吸し、息を整えた。

こんなに、押してくる人だったのかしら。

ドキドキしっぱなしだ。

ホーン様とも、また、他の男性とも一度も甘い雰囲気になった事がないから、戸惑いしかない。

自分の身体なのに、どこが甘く疼く初めての感覚に戸惑いを感じながら嫌ではない自分にどう対処していいのか分からなず、落ち着かなかった。

「あの男もされたのか?」

不安そう瞳で聞くから、すぐに首を振った。

「な、何もなかったわ。ホーン様は婚儀の誓いの口付けさえも、真似事で終わった。婚儀後はすぐにカテリナが来たから寂しいくらいに何も無かったわ」

辛いくらいに、意味の無い夫婦間だった。

「それは俺にしたら、嬉しい事だな」

だから、その内容で喜ばれるとどうしたらいいのか分からないわよ。


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