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16 ニンゲンの望み 2


 ミケさま、…―――ご無事かな、…―――。


 ニンゲンが、ねている。

 急に暑い日が続いている為、殆ど寝倒れるような形で寝ているが。


 しま王子は、棚の上に足を投げ出して肉球と耳だけがみえる形で寝ている。

 ふく姫は、階段の上にてろんと横になってのびてねている。

 ミケ女王は、――――夜中だが、元気にお外で活動中である。




 白い雲の上から、神様達はそんなニンゲンとねこ様達をみていた。

「よし、ねてるな」

 嵐神が腕組みしていうのに、若い神が緊張して瞬く。

「い、いきますね?」

「おう、がんばれ」

 嵐神と若い神。

 そして、神様が白髭に手をそえて無言で二柱の神の後にいる。

 バックアップ体制は万全である。


「よし、いくぞ」

「…は、はい!」

 緊張した若い神が嵐神の声に杖を握り締める。

 白木の杖は、ふしがありつるつるですべりやすそうだ。

 その杖をねむるニンゲンに向けて。



 (―――入りましたっ、…!)

若い神の声に、嵐神が指示する。

(よし、ニンゲンの夢に入ったな?)

(はいっ!)

(…よし、望みをきくんだ)

(―――は、はいっ、…)

 緊張して、若い神がぐっ、と杖をにぎる。

 そう、ニンゲンの夢に入ることで、その望みを聞こうという作戦である。

 すなわち、夢うけい。

 古くからの伝統の方法である。

 夢を通して神様から伝言を伝えたり、ちょっと器用な人間だと、「夢」という通路を利用して逆に神様にお願いごとを伝えたりしてきたりするという夢の通路である。

 本来、神様達は世界に住むちいさきものたちの運命に手を加えることはゆるされないが。

 それは、つまり、神様達が例えば人間に接触してはいけない、というルールになるのだが。

 本来はそうだが。

 ルールである以上、何事にも例外は存在する。

 世界を管理していると本当にいろいろある。

 そんなとき、ちょーっと、世界に住む命に、ちょっと、かわりにこれやっといてくれる?とかいえるととっても便利なのだ。

 そう、便利。

 案外、世界を管理するというのは大変なのである。

 そんなわけで、例外というか、ルールをかいくぐる方法が開発された。

 それが、夢うけい。

 夢というルートを通せば、神様から伝言ができるということにしたのだ。

 だって、夢だし。

 「現実」に触れたわけではないから。

 「世界」に直接降りたりしたわけじゃないよ?と。

 「命」に直接、接触なんてしたら、そもそも神様達とちいさき命では差がありすぎて、伝言する前に吹き飛んでしまうだろうし。

 そんなわけで「夢」を通してなら伝言とか、お話するのも多少はオッケーという雰囲気が出来上がっているのである。ちなみに、割と各世界共通であったりする。

 それはともかく。


 そんなわけで、神様達はニンゲンの夢に接触したのだった。


 ねこ様達の要望により、異世界転生をキャンセルされてしまったニンゲン。

 しかし、運命を紡ぐ糸はすでに切れている。

 命を終えるはずだったのだから、当り前である。


 地震で怪我をして、仕事を失い。

 家も何とか住めないことはないけど、こわれてしまって。

 お風呂に入れないなんて。

 それでも、何とかニンゲンは怪我をなおし。

 やっと仕事をみつけて働き始めた処に。


 交通事故にあって、怪我をして。

 仕事をなくして。

 本来、ここで死んで異世界転生をするはずだったのだが。


 ねこ様達から異議申立があり、いまにいたる。


 そう、ニンゲンが仕事という生きるすべを失ったのも必然だったのだ。

 何故って、ニンゲンは本来死んでいたのである。

 「世界」との縁が切れたのだ。

 「本来の運命」では、この世界にもうニンゲンはいないはずなのである。

 だから、ニンゲンがいるはずの場所はもうなかった。

 仕事という縁も、だから切れてしまったのだ。


 ニンゲンは、ねこ様達の要望によって生かされてはいるけれど。


 生命体一つが生き残った処で、大した量ではないから別に世界全体としては変化などないのだが。

 それでも、ニンゲンという命がつながれていた縁という糸はすべて切れてしまったのだ。ねこ様達のお世話をするという生きる目的がかろうじてニンゲンをこの「世界」につなぎとめていたのである。

 縁をなくしたままでは生きていけない。

 しかして、本来死んでいたのであるから、すべての縁は切れている。

 ニンゲンが、仕事探さなきゃ、…とか暗く考えているが。

 そもそも、すべての縁が切れた状態が本来であるのだから、本当は仕事を探す処ではないのである。

 縁を新しく繋ぎ直す処から始めなくてはならないのだ。

 もっとも、それが難しい。

 新しい縁と簡単にいったって。

 本来の運命線はすでに切れているのだ。


 ミケ女王様、…どうするんですか、これ、…とかいっても。


 勿論、ねこ様達がアフターフォローなんてするわけがない。

 なので、若い神なんかは悩んでいたわけである。

 あまりに、辛い人生を歩んできたニンゲン。

 しかも、世界の揺らぎ消滅線なんてものに嵌まり込んでいた為に、ニンゲンの人生は神様達からみても人生ハードモードで辛すぎるものであった。

 ――ここまで、不幸をてんこもりにしなくても、…。

 いわゆる、設定もりすぎ、というヤツである。

 小説で書いたら、「これ盛りすぎだから、もっとシンプルにしてね」とかいわれそうなニンゲンの不幸続きの人生である。

 よく、転生するはずの時点まででも生き延びていたものである。

 よくやった、ニンゲン!

 よく、がんばったよ、…。

 というわけで、ご褒美にというか。

 幸せなスローライフに異世界転生をするはずの予定だったのだが。

 というか、若い神はあまりに辛いニンゲンに同情して、異世界転生の空きにニンゲンの魂を推薦してくれていたのである。

 ――――…だがしかし。

 ねこ様達のご要望が、すべてを覆した。


 ニンゲンは、異世界転生をキャンセルされたのだ。…

 ねこ様、責任取ってください。…

 いや、ねこ様だから、とらないんですけど、責任。

 そんなわけで、不憫すぎるニンゲンの為に、若い神は改めて異世界転生をさせられないかを考えて悩み。

 嵐神の提案により、ニンゲンの要望をきいてみようということになったのであった。その為に、夢に入る。昔からある伝統手法である。

 そんなわけで。


「…――ニンゲンさん、…きこえますか?」

 若い神が、そっと声をかけた。










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