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18 嵐神と若い神の緊急臨時会議


 ミケさまが元気だといいな、…。

 それでねこ達がみんなしあわせだといいな、―――。

 一緒にいられなくても、ねこ様達がしあわせならそれでいい。



「困りましたね、…」

「確かにな」

若い神が困惑し、嵐神が腕組みしてうなる。

「本当にな、…こういうときは、こう、…――普通は、王になりたい、とか、チートが欲しい、とか。いろいろあるだろ、億万長者になりたいとか、世界征服してみたいとかだな?」

「…―――それって、一般的なんですか、…」

腕組みしながら嵐神のいう喩えに少しばかり引いて若い神がいう。

それに、鷹揚に頷いて。

「当り前だろう。神からの声で望みを聞かれてるんだぞ?そもそも、それを認識していないとしても、夢の中だ。本来なら、赤裸々に本人の望みというものが出てくるものだ。ハーレム希望とかな?」

「…に、人間って、そんなものなんですか?」

驚いている若い神に軽く肩をすくめる。

「そういうもんだ。異世界転生なんて、欲望が忠実に出るもんだぞ?ハーレム、王になる、勇者として活躍したいとか、魔法を使えるようになりたいとかもあるな。…要は、人が繁殖する為に必要な本能が表に出るんだろう。財に関する要望も、より着実な繁殖方法だと思えばそんなものだ。生命体というのは大体がそうだな」

「…―――スローライフ、とかは、…」

異世界転生に関する現実を知って困惑している若い神に嵐神がちら、と視線をおいていう。

「そうだな、…それもまあ、生命維持の方法として穏やかな方法を選択して、繁殖へとつなぐ方法の一つだろうな。環境を整えるとか、あるいは本人の寿命を伸ばす方向性とかも同じノリだ。ま、だから、最近は同じような要望が多くて女神達が大変でな、…。おまえさんの手助けには、本当に感謝してたぞ?」

「…ええと、そのくらいでしたら、…しかし、それでは」

夢に入り込んでまでニンゲンの要望を聞きにきた神達なのだが。

 嵐神が沈黙する。

「ねーな、…」

不意に言葉使いが悪くなる嵐神に若い神が天を仰ぐ。

「…神様にアドバイスは、」

「無理だろうな。…あの方は位が高すぎて、本来直接この世界を覗くだけでも影響力が強すぎるからな。それでも、気になるくらいこの生命体の運がこれまで悪すぎたというか」

「…世界と世界の消滅離合点の界境で、解放界境条件の消滅点に生まれてきてしまっているようですからね、…」

「ムリゲーという奴だな。ヒトのいうそれだ。」

若い神の言葉に嵐神が腕組みして沈黙する。

 白い雲のような中で会話は進められているが。

 そして、かれらの下でニンゲンはまだ夢の中にあるのだが。

「…どーしたもんかな」

「そうですね、…時間軸は停止させたままですけど、…」

「そう永いこともやってられないしな。」

「はい、永久の中に刻を閉じ込めて、夢の中ということで世界の時間軸に影響を与えないように接触していますからね、…」

「だな、…こうなったら、いくか」

「何をです?」

嵐神の決意に若い神が驚く。

「積極的にいってみよう。この生命体にだって、夢の一つや二つ、これまで実現をあきらめたものや、この生命の望みとしてやってみたかったことがあるはずだ。これから、実現できるとしたらやってみたいことがな?それをつつこう」

「…いいんですか?それ?干渉には、…」

その提案に怯える若い神に嵐神がいう。

「そんなもの、ねこ様達の希望を通す為に無茶をしたといえば通る」

「…―――そういえば、最初はそこからでしたね、…」

ねこ様達の女王、ミケ女王の下僕解放は困ります宣言からの、異世界転生キャンセルを思い起こして若い神が肩を落とす。

「そもそも、ねこ様達の横紙破りからきた話だろう?なら、文句もいわれないさ。上の方の管理局からも、ねこ様達からの要望だと伝えればむしろ積極的にやってくれとくるだろうからな」

「そういうものですか、…」

「そういうもんだ。そもそも、ねこ様達に勝てる存在はいないからな」

若い神の疑問にもきっぱりと嵐神が言い切り。

 そして、訊くことになる。

 ニンゲンは、何か夢を持っていないのか?

 これまで、ねこ様達のことしか願っていないニンゲンなのだが。

 そもそも、ねこ様達の下僕としての人生以外、ニンゲンが選択することがあるのだろうか、という点はともかくとして。

 まあ、それが望みと云えば望みなのだろうが。

 それでだ、と嵐神が仕切る。

「聞く内容を調整しよう。生命体が生きる為に必要な能力というものが必要になるから、その方面を何とか発掘できる夢があるといいんだが?」

困ったようにいう嵐神に若い神が首をひねる。

「生きる為に必要な能力ですか、…?あまり、よくわからないのですが」

困惑している若い神に嵐神も溜息を吐く。

「正直、おれにもわからん。神としての能力を調整するとか、勢力範囲を制限するとかとはまた違ってな、…。ヒトの生命維持に関しては、その世界条件次第って処があってな、…」

「転生の場合は、そこを最初から整えていくのですよね?」

「そうだ。先にもいったように、人間の場合はそこが財力とかいう人間世界で通用する条件になることが多い。その世界条件次第なんだが。まあ、少なくとも、人間が生きる際には、生命維持の為に何らかの方法が必要だからな。その世界によって、商売をして稼ぐとか、勇者になって剣にものをいわせて領地を奪い取るとかな。悪役令嬢とかになって、生まれた家の経済力とかで生活していくという方法もあるらしいぞ?」

「…――異世界転生担当って、大変そうですね、…」

嵐神が持ち出す例に、若い神が嘆息して首を振る。

「後は世界軸が違えば、宇宙船になっていきるとか、もう本当に色々あるんだが。…おまえさんのいる方面は楽といえば楽だな。それでも、バランスを保つのが微妙な調整がいる方面だから、それもそれで大変だろ?異世界転生方面は、大雑把でもいい面はあるんだが、…。本当に色々あってな?」

「大変ですね、…。ともあれ、今回は異世界転生はキャンセルされてしまっていますしね、…」

「そこで、本来世界との縁が切れた生命体の生命維持方法について検討しなくちゃならんわけだからな、…。ねこ様達の下僕として必要な条件等も加味して決定することにはなるとおもうが。それでも、おまえも、神様もこの生命体の行く末を少しは気に掛けてるってことだろ?」

「…はい。いいことではないのだろうとおもうのですが」

嵐神がその言葉に、ふっと微笑う。

「いや、いいんじゃないか、…?」

「え、でも」

不意に優しいような皮肉な微笑みを乗せて、嵐神がいう。

 それは。

「でなきゃ、おれも此処に派遣されてきてないさ」

「あ、その、――…それは」

「まあ、なんとかこの人間自体の望みを掘り起こしてみよう。…何を望んでるかは、――ねこ様達のしあわせだとしてもだ」

「たまにいるんですよね、…。他者のしあわせしか望んでいない生命が」

「…いるな。それだとやっかいだが、…聖者認定される程ではないだろ?…ないよな?」

「多分、…と、思います」

「…――やはり、多少強引にやろう。こいつの望みを掘り起こしたら、多少大きくなりすぎても、やっちまおう、うん」

「え、あ」

「不用意に名前を呼ぶな。夢の中にまだつながってるんだから、やめとけ」

「…はい、すみませんでした。…この会話は聞こえていませんけど、まだ連結してる状態ですものね、…」

「そうだ。それに、最終的に、この生命体がこの世界で生命活動を終えたら、どちらにしても異世界転生はさせないといけないからな、…。あまり、神同士の会話なんて聞かれて記憶されたら厄介だ」

「…結局、異世界転生はさせるんですか?」

「最終的にはな?それも、この世界で三毛猫の女王達の満足するまでお仕えしてからの話だ。そのお仕えするのに、…ねこ様達は下僕の生活条件とか、生命維持の方法などお世話してくださったりはしないからな、…―――」

嵐神が遠い目になる。その視線は、幾重にも無限に続く世界線を俯瞰して、遙かな彼方を見通すだろう。

「そうですね、…。最近、憶えたのですが、生計の道、というものが必要なのですよね」

「おまえ、それどの世界線をみておぼえた?」

「はい?ええと、…―――どこでしたでしょう?生活、というのをする為に、仕事というものをして、それで稼ぐことがたつきのみち、というものだったかと。どこでしたでしょう?」

「訊く理由はな?今回のニンゲンが生きている世界と同じ世界で見聞きしたことなら、この世界での生命維持方法に近い可能性があるだろ?正直、おれは最近、異世界転生担当に近くてな、…。こういう、なんというか、剣も魔法もない世界というのはしばらく触ってなくて加減がよくわからなくてな」

嵐神が難しい顔をしてうなる。

「多分、要望を聞くといっても、王になるとか世界征服したいとか、魔王を倒したいとかいうのは、この世界線には向いてない、…とおもうんだが、どうだろう?」

「そうですね、…。もう少し時間軸が前でしたら、世界征服とかもあったかな、と思うんですが、…。この時間軸では難しいでしょうね、…それに」

「それに?」

嵐神を真面目な顔で見返して、若い神がいう。

「そもそもですが、このニンゲンがそういったことを望むかどうか、…。それらを望んでくれればまだわかりやすいんですが」

「…その問題があったか」

「そもそも、ねこ様達のしあわせを願うだけですからね、…」

「欲望が消滅してるという点では、異世界転生に非常に向いた状態ではあったわけだな、…」

「転生ですからね。今生での未練がなく、次の生に向けて準備が出来ている状態というのが一番理想的ですから」

「…ねこ様達の下僕問題さえなければな、…」

「難しい問題ですからね、…」

 いかに転生させるのに条件が良い魂であろうと。

 三毛猫の女王様の要望を覆すということだけはできない。

 ねこ様達の要望、至上である。―――

「…おれたちとしては、ねこ様達の要望を叶えて、かつニンゲンという生命体が生命維持を可能とする、――たつきのみち?だったか?何か地味系な気がするが、…を、とにかく見出す必要があるということだな?」

「はい。…――かなりな困難を伴うかとおもいますが」

「そもそも要望がない案件だからな、…。調整を間違うと大変なことになる」

「そうですね、…そもそも、ニンゲンというものが何を望むのかわからないから訊くのですしね」

「そうなんだよなあ、…」

もう、適当にこっちで選んでもいいかな?と。

 改めて要望を訊く際に、一応この世界線で間違いのない方向性を検討していたはずの嵐神が難しい顔で腕組みしていう。

「だめですよ、投げ出しては、…――」

「…でもなあ、この世界の生命体――ニンゲン、のたつきの路か?とかっていうのはよくわからんのよな、…。適当に魔法が使えるとかじゃダメか?生きにくいか?」

「ダメでしょう、…。神様にそれは禁じられています。」

「そうだったか?」

驚いて嵐神がいうのに、若い神が謹厳な表情で頷く。

「そうです。この世界は、古世界の起源となった世界でもあるので、神様が管理しておられるんですよ?古は、神との会話をする巫妓などが祝詞により生滅を叶えることもありましたが、…。それ以外の通常の魔術や魔法は管理外として禁止されていますから、その方面はダメです」

「…――知らなかった、…。すまん」

「管轄が違いますから」

「そうだな、…あまり適当なことをしてもダメか」

「それでも、なにか見繕いませんとね」

「だな、…。夢をすこーし、掘って、…。負の感情とか引き当てるとまずいが、…。消滅点に生まれてるってことは、本来、負の生存を強いられてきたはずだから、負の感情が凄いはずなんだけどな、…」

「それもあることは観察したのですが、それ以上に」

「…―――ねこ様達の幸せ祈るとか、きいたことはねーな、…。神様もおまえも、気になるわけだ」

「そうですね、…。復讐いらないとかいわれてしまいましたものね、…」

どうしましょう、と彷徨う雰囲気で若い神がいう。

「だよな、…。ニンゲンなんて、本来そーいう生臭い辺りを大きく欲望として語ってほしいものなんだけどな、…。だったら楽なんだが、…。微妙に調整が沢山必要な案件になる気がしてな」

「…その、それはこの世界自体が調整案件ですから、…すみません」

「いや、こちらこそ、すまん。おれはあまり微妙な調整がうまくなくてな、――――練習だとおもってやるしかないか」

「はい、…――」

嵐神と若い神が視線をあわせる。

「最悪、ニンゲンの要望が汲めないとしても」

「そうだな、…。次の転生まで、ねこ様達の下僕として、ねこ様達に不自由をさせない暮らしというものをしてもらわないといけないからな」

嵐神が天を仰ぐ。

何処か、放心したような悟りに近い表情で。

「…おれに、そんな微妙な案件が本当にできるとはおもえないんだが」

「…多少のやり過ぎは、いいのでは、と」

腕組みをして遠くを見る――多分、人間的表現なら、三千世界の向こうを見ている――嵐神に、そっ、と若い神が囁く。

「…いいのか?」

振り向いた嵐神に、若い神が無言でうなずく。

「…この世界に夢の中とはいえ、小さきいのちに神様が接触の許可を出されたのです」

「だな、忖度すれば、…―――」

きっぱりと若い神がうなずく。

「よし、いくしかないか」

「はい。この際それしかないかと」

何やら過激な結論を若い神と嵐神が出して。





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