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23 ねこまみれの宿命(さだめ)fin



「えっと、―――?応募、したっけ?

 した、…――かもしれない?した?」

 ニンゲンは戸惑っていた。

 記憶が何か曖昧で。

 それが何やら驚きの連絡で。

 送られてきたメールの内容をみなおして、瞬きする。

「…いたずら?」

 どうやらそれは、―――。

 簡単にいうと、何やら入賞したので賞金が手に入って。

 本が出せる、という連絡らしく。

「え?でも、…――そういえば、怪我する前に何か応募したような気もするけど」

 でもそんな?と戸惑っているニンゲン。


 ニンゲンは本を読むのが一番の趣味だった。

 それで、普段から色々なことを想像してお話を作るのが大好きだった。

 地震で怪我をして家が壊れて片付けをする必要が出来て。

 すっかり忘れていた趣味で書いた小説が沢山出て来たのだ。

 そして、家を片付けている合間に、仕事を探している中で初めて誰でも小説を投稿できるサイトがあることを知った。

 ――やってみようかな、…。

 お話を作って書くのは楽しい。地震で落ち込みそうな気持ちも、そこにある小説を読んだり、投稿したらちょっと反応があったりして楽しかった。

 昔から、お金のかからない趣味としてお話を考えて作るのは大好きだったのだ。

 それで、こんなサイトがあるのはしらなかったから。

 ついでに電子で応募できて賞金がもらえるものには、これで賞金が当たって家が修理できたらいいなあ、なんて思いながら応募したりもした、気がする。

 無料で出来るのってありがたいよね。

 尤も、宝くじを買うようなもので、期待なんてしていなかったのだけれど。

 家のオヤが続けて倒れてしばらくは、書いている時間とかもなかったからなあ。

 特に呼吸器管理は24時間ほとんどまともに眠れない状況で。

 ―――本当に、色々あったな、…。

 いつもなんとかなりそうなときに、また振り出しに戻るような人生だったな、とおもう。

「って、まだ人生一応終わってないけどね?」

 地震の後、ようやく就職出来て何とか働き始めた処に、交通事故に遭うなんて。

 ―――普通、おもわないよね?

 まったくね、と。

 それで仕事先が極めてブラックだとわかり、仕事はなくなり。

 何とか、リハビリをして右手が動くようになって。

 歩けるようにもなり。

 そこで油断して帯状疱疹なんかに襲われたりもしたのだけれど。

 でも、まあ。

「ねこ達が無事だしね。ミケさまも元気、しまもアレルギーで掻いちゃった処は治ってきてるしね。ふく姫も暑い二階だけじゃなくてエアコンの効いた一階にこれるようになったし」

 ねこ達がみんななんとかなりそうなのが一番うれしい。

 そして、体力も何とか戻ってきていて、痛みもあまりなくなってきてるから。

「どうにか、仕事を探さないとと思っていたんだけど、…」

 いや、仕事をしなくていいわけはないだろうけれど。

 多少ともたすけになるなら、体力的にも無理した仕事をしなくてすむかもしれない。

「賞金、…本当ならうれしいな」

 これで、心配なくねこ達のごはんが買えるし病院でお薬も買えるから。

 ――いまだって何とかはしてるけどね?

「それでも、たすかるなあ、…ほんとに」

 本当に、たすかる。

 これで本を本当に出せたのが売れて、もしかして家の中で仕事が出来るようになれば、ねこ様達のお世話もしやすいんだけどね、と。

 通勤がなければとてもたすかるけど、と。

 ねこ様達のお世話をして、仕事が小説――というには、自身の作る話がそれほど立派な物とはおもえなくて、ついお話というのだが――を書いて暮らせるならたすかるな、と。

 それに、そうしたら、家でもし自分が倒れたりしても、仕事仲間とか仕事先の人が連絡取れなかったら、気がついてねこ達をたすけてくれるかも?

 そうなるには、ちゃんと連絡を密にとらなくてはいけないけれど。

「そうなると、いいなあ、…」

 ねこ様達の為にも、と。

 そんなことをほけほけと考えているニンゲン。



 そして。

 白い雲の上では、神様達がニンゲンの様子を観察していた。

「ほうほう、これでなんとかなりそうじゃの?」

神様が白い髭を手に満足そうに笑う。その隣りで、嵐神がうなずいている。

「こういう方法があったんですね。勉強になります」

「おぬしは、剣と魔法の世界が専門じゃからのう、…」

「はい、正直、こういう手は思いつきませんでした。勇者にして王からの報奨金で食わせる、とかならあるんですがね。…――」

「それで、これから、例の消滅点を囲ったせいで漏れてきている余剰に関しても手を打たれるわけですか」

感心する嵐神に、これから先を神様に訊く若い神。

「そうじゃ。消滅点から他の世界へと流れがあるものを堰き止めておるからの。それを利用して、他の世界から漏れ出るものをすこしずつでいいから開放してやるのだよ」

神様の言葉に、若い神がニンゲンを見直す。

 嵐神がいう。

「それを、このニンゲンが書くお話とやらに反映させるのですね?」

「そうじゃ。この世界とは異なる世界へと繋がる路を塞いでおるのじゃからの。ニンゲンの想像を通じて他の世界からのものを形にしてやれば、その物語を通じて多少は漏れが暴れるのを防ぐことができるのじゃ」

「…奥が深いですね」

「昔から、世界の物語は本として記録されてきたからのう。嵐神も今回この古世界に降りる前に、座標確認の為に図書館へ降りたであろう」

「はい、無数の書物が螺旋の書架に連続して納められているのは壮観でした」

「あれの管理人は有能じゃからのう。今頃、この新しい物語の記録を閉じていることじゃろうよ」

「とじる、――ああ!忘れていました。本来なら、おれが降りている間に開いてもらっていた世界の本をとじてもらわなくてはならなかった。戻ってきたんですから」

「そのくらい、いわずともやってくれておるよ」

「…そうですか。古いお付き合いで?」

「うむ、ながいのう、…。さて、それはともかくじゃ」

「はい」

神様があらためて嵐神と若い神をみる。

 そして、頭をさげる神様に二柱があわてる。

「か、神様?!」

「―――どうしたんです?」

驚きながら呼ぶ若い神と、思わず身を引く嵐神。それに、神様が顔をあげて笑んで。

「わしはの、昔むかし、この古世界を世界を観測する為の標準点に選んだ」

「――――…」

無言で真顔になり嵐神が神様の言葉をきく。

「それゆえに、本来なら転生させてやらねばならぬ魂を、ちいさきものを世界の犠牲として転生をさせなんだ」

神様の抱く後悔は。

「なれど、その魂をもつものをわれは掬うこともせずにこうしておった」

「…神様の御力では、」

 神様の力は強すぎて、―――。

 言葉を継ごうとする嵐神に、軽く首を振って神様が遮る。

「わしは、きちんとみておったわけでもないのじゃよ。生きるものにとってつらい生を生きておることを知りながら、その生を観察さえしておらなんだのじゃ」

「…神様、」

「かわりに、おぬしがみつけておったのじゃの」

「――――はい、」

 あまりにつらい人生を送ってきたニンゲンの生を、若い神はみてきたのだ。

 だから、異世界転生に推薦した。

 スローライフとか、穏やかな人生とか。

 そういう生を今度は味わえるようにと。

「――来世はともかくも、今生はこれから穏やかで平和でしあわせな人生になるであろうよ。何より」

 神様が若い神に微笑みかける。

「ねこ様達が、下僕の観測を続けていかれるからのう、…」

 ニンゲンの人生をみていたものは若い神の他にもいた。

 ねこ様達。

 三毛猫の女王ミケさま他、ねこ様達がニンゲンを観察していたのだ。

 観察であり、観測。

 その観測により、結果は変動する。


 ねこ様達は下僕としてニンゲンを見出し、今生をつらいまま終えるのではなく。

「わたくしたちの下僕として、充分にできるようになさい」

 そう、嵐神に告げた三毛猫の女王ミケさまのご尊顔を忘れることはないだろう。

 気高く、威厳があり。

 艶やかなグリーンの瞳も美しい三毛猫の女王。

 かくして。


 ねこ様達に異世界転生キャンセルをされたニンゲンは。







「ミケさまー!もう戻りましょうよ?ね?」

 つーんと、ミケさまが縁側でご飯を食べながらふいと反対側を向く。

 縁側から、新しいお水とご飯をくつぬぎに出していうのはニンゲンである。

 ミケさまは、ニンゲンの古家の庭と縁側を居場所にして、庭の散歩を楽しんでいたりとする。

 ――わたくしは、ニンゲンに試練をあたえているのです。

 確かに、ニンゲンはミケさまが心配すぎて余計なことを考える暇もなくなっているようだが。

 あれって、でも単に外に出たいだけだよね?

 室内ででろーん、と伸びてしま王子が考える。しま王子としては、わざわざ暑いお外に出て行くミケさまの気が知れないのだ。

 ふく姫は、ミケさまがお外にいるのが大歓迎である。

「自由って、いいわー!」

 ぴょん、とタンスに登っておもうのは、それだ。

 室内探索の自由である。

 ふく姫もお外はどうでもいい派だ。

 おいしいごはんとおやつがすぐに出てくる室内さいこー!である。

 そして、そう。

 ニンゲンは、お家の中でできるお仕事をみつけたらしい。

 オンライン、とかで打ち合わせ、とか何かしているらしいが。

 それをしま王子がときどき邪魔していて、「かわいいー!」なんてオンラインとかの向こうから声が聞こえてきたりするけれど。

 ふく姫には関係がない。

 ゆっくりまったりねむれればそれでいいのだ。

 そして、ニンゲンのなさけない声が聞こえている。

「ミケさま―、中に戻りましょうよ-」

 その声に、ニンゲンってこりないわね、とおもうふく姫である。














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