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2「星の道筋」

 真珠の城、ともいわれる帝国本星域――――。

 その揺るがぬ美しさと儚く淡い炯を纏う星雲に。

「帝国旗艦藍氷、帝国本星領域侵入許可求めます。―――」

「帝国本星領域管制より旗艦藍氷を認識、―――中心域をφ10度左舷角度5度、星の道筋を辿れ」

「了解、航路受領、―――航路調整、φ10度、左舷角5度、―――…」

帝国本星域を行き交う航路を管制している領域管制から許可を得て、帝国旗艦藍氷が中心域を抜ける実に細い航路を指定され、そこを見事に抜けていく。

 針の穴に糸を通すよりも細く難しいとされる指定された航路は名を「星の道筋」という。いまだ宇宙に進出した帝国の先祖達が未熟であり、星への道を辿り始めたばかりの頃に発見された航路でもある。

 しかし、その未熟期に発見され開発された航路であるというのに。

 いや、だからこそか。

 帝国旗艦藍氷が指定された「星の道筋」は、重力域がタイトであり、惑星と星、星雲を構成する幾重にも存在する重力の網を潜り抜けるには、実に難しい操船を要求される航路でもあった。

 古代宇宙進出期とも呼ばれる、帝国の先祖達が宇宙にと進出し始めたばかりの頃には、他の航路を選ぶ余地はなかったのだといわれている。

 真珠のように美しいといわれる星雲は、その内部に幾多の星を、恒星と惑星を持ち、あまつさえ、中心領域にはブラックホールとホワイトホールを併せ持っている。

 その相互干渉する重力の複雑さが、美しい真珠の外観をこの星雲に与えているのだが。重力の相互干渉を搔い潜り、星々に壊滅的な影響を与えずに巨大な戦艦である帝国旗艦藍氷が抜けるには、あまりに細い通路なのだ。

 初期の宇宙進出では、相互干渉の無い領域を抜けるのが唯一の脱出への道であり、故に「星の道筋」とも呼ばれたのだが。

 非力な船であれば、重力干渉を抜け脱出するにはいい航路であるが。

 白髪の女神――あるいは帝国の女神とも呼ばれる常勝将軍。

 藍氷の艦長リ・クィアは。

「…――――」

 無言で、藍色の冷えた瞳で冷静に航路を行く艦の道筋を行く手の宇宙に映し出す映像を見つめる。

 艦長席にしずかに座り無言である姿は、美しく氷の華とも呼ばれるのが相応しい冷徹さをみせてある。

 巨大な戦艦は、この細い道筋には向いていない。

 本来なら、裏航路――と、呼ばれる――である、本星域へ至る前に大きく遠回りして星雲のいわば裏側へと回り込む航路がよくつかわれている。

 本来、大型艦は航路をいく困難さと、事故がおきた場合の被害を抑える為にも裏航路をいくのが通常となるのだが。

 星にも、星雲にも本来ならば裏表など存在しない。

 しかし、慣習的には、そして、帝国の歴史という抜き難いものを考慮すると。

 帝国旗艦である藍氷は、無理筋でも針に糸を通すより難しいとしても。

 最初の星雲脱出者である伝説の船――帝国始祖が乗り操ったという伝説の船だ――が取った、いや、取るしか他に方法がなかった伝説の航路を。

 そして、帝国旗艦である以上。

 単純に、裏ではなく表から帰還する必要があるという。

 儀式的とも、なんともいえぬ事情から。

「しずかに進め。」

艦長がゆったりと微笑み命ずる。

艦長席に落ち着いておだやかに何事もないようにして座る姿が呑む緊張の糸は誰にもみえないが。

 本来ならば、針に糸を通すよりも難しい曲芸をせずに。

 ――別に裏から帰還しても構わんとは思うが。

そっと微笑み、氷の微笑を湛えて艦長がおもう。

 ――我が艦にはそれができるからな。…

美しい笑みに泰然とある姿は氷の華と、帝国の女神と呼ばれるに相応しい美しさと威厳をみせてある。

 泰然と、その主と同じように悠然と帝国旗艦藍氷は漆黒の宇宙を進んでいく。





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