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第4話

嫌だ嫌だと思っても、一介の冒険者にマスターからの呼び出しを断ることなんて出来るはずもなく。


仕方なく勉強道具を片付けてマスターの執務室へと向かう。


書庫もマスターの執務室もギルドの二階にあるのがせめてもの救いかな。

これが一階だったりしたら、絶対に他の冒険者のみんなに揶揄われてる。


昔から私のことを知っている人が多いから、それも可愛がってくれてるからこそだっていうのはわかってるけどね。

嫌なものは嫌だもん。恥ずかしいし。


肩を落としながら書庫を出て、廊下を突き当たりまで進む。

執務室は二階の一番奥にあるのよね。

他の部屋のものよりも少しだけ立派で、よく分からない変な紋様っぽいのが刻まれている扉をノックすれば、中から「入れ」と男性の声。


「失礼しまーす」


「おう、わざわざ呼び出して悪いな」


全く悪く思ってなさそうな顔でそう答えるとても厳ついおじ様。

何も知らない人が見たら、ブラッドベアとかと間違えるんじゃないかなってくらいにデカいこの人こそが、冒険者ギルドクロームズ支部のギルドマスター様だ。


元Aランク冒険者らしいから、今私がやってる勉強この人もやったんだよね?マナーレッスンもやったの?本当に?


「どうしたぼさっとして。ほれ、さっさと座れ」


「あ、はい。すみません」


ソファに座るように顎で促され慌ててその通りにする。

マナーレッスン受けたはずなのにあれって……。

まぁいいけど。


「ところで今日の用件は何でしょう?依頼ですか?」


マスターに呼び出されるなんて、それくらいしか思い付かないんだよね。

たぶん最近は問題は起こしてないはずだし。たぶん。


しかし、私の予想はあっさりと裏切られる。


「いや、領主様から呼び出しだ」


「…………はい?」


あれぇ?おかしいな、聞き間違いかな?


「だから、領主様から呼び出しだ」


「…………」


うーん。おかしい。勉強のし過ぎで耳がおかしくなったかな。

特に耳は使ってないけど。


「明日の午後。領主様の屋敷まで行ってこい」


「…………」


「…………」


マスターは言うべきことは言ったとばかりに、ふんぞり返ってるだけでそれ以上何も言おうとしない。

ってことは、聞き間違いでも私の耳がおかしくなった訳でもないってこと?


「何かの間違いじゃ?人違いとか?」


「いや。

冒険者ギルドクロームズ支部所属、Bランク冒険者『狂風』のアリサ」


「……はい」


わざわざ二つ名付きで名前呼ばなくてもいいじゃん。

私は一度もそう名乗ったことなんてないのに。


「間違いなくお前さんをご指名だ。

ほら、読んでみろ」


そう言いながらマスターがぽいっと投げて寄越した封筒を開いて中を見てみれば、とっても綺麗な文字と丁寧な言い回しでマスターが言った通りの内容が書かれている。

さすがに『狂風』とは書かれてなかったけど。


「あの、領主様からの依頼ですか?

それなら、Aランクからのはずじゃ……」


人数こそシンスター支部とかよりは少ないけど、クロームズ支部にだって何人かAランク冒険者はいる。

だから、依頼ならその人達に行くはず。


「こちらからもそう思って確認させたが、お前さんで間違いないそうだ。

諦めて行ってこい」


いつも可愛がってくれているAランクの先輩達の顔を思い浮かべながら尋ねる私に、マスターは厳つい顔をさらに厳つくしながら答える。

子どもが見たら、その場で泣き出した上に夢にまで見てしまいそうな顔だ。


「そんなぁ……」


「まぁ、俺も何回か会ったことはあるが、領主様はそう悪い人じゃねえよ。

いきなり問答無用でとっ捕まったりはしねえだろ。たぶんな」


「たぶんて……」


確かに今の領主様は街中でも結構評判はいいみたいだけど。

確か、奥様がすごい優秀な方で領主様をめっちゃ助けてると聞いたことがある。

それを聞く度にすごいなー、ありがたいなーとは思ってたけどさ。


そりゃあ、いずれはAランクになってお貴族様相手の依頼も受けるつもりで勉強はしてたよ?

でも、実際会うとなったらやっぱり怖いじゃん。

確か領主様は子爵様だよね?

怒らせたら、私みたいな平民の首なんて簡単に飛ぶわけだし。


もう、なんでなのよぉーー!!

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