「ほえぇ……これがお貴族様のお屋敷……」
緊張しながら領主様のお屋敷へと一歩足を踏み入れた私の第一声は、自分でも間の抜けたものだなって思う。
でも仕方ないんだよ!
外から見てもめっちゃでっかいお屋敷だと思ったけど、中に入ってみてもめっちゃ広いんだもん。
それになんだろう?
ものすごくピカピカしてる。
お貴族様のお屋敷って、何だかよくわからない絵とか、誰をモデルにしてるのかさっぱりわからない彫刻とか、何がいいのか理解不能な実用性の全くなさそうな壺とかがたくさん置いてあるのかなってイメージしてたけど、そんなこと全然ないんだよね。
確かに絵はあるけど、私が見ても綺麗だなって思える何処かの湖みたいな景色の絵とか、家族の絵かな?っていうのが少し飾ってあるくらい。
彫刻はないし、それ以外だと壺というか花が活けてある花瓶が少し。
なのに、なんでピカピカしてるんだろう?ってよくよく見てみたらわかった。
ここ、めっちゃ綺麗に掃除してあるんだ。
床も家具も、光るくらいにピカピカに磨いてある。
だからお屋敷の中そのものがピカピカして見えてるんだ。
すごいな。冒険者ギルドもこのくらいになるまで掃除してくれないかな。
結構汚いんだよ、あそこ。
「ほっほっ。屋敷の内装も気に入って頂けたようですな」
口を半開きにしたままポカーンとしていると、バクチーニさんに笑われてしまった。
近くにいるメイドさんかな?女性の方達にも、何だか微笑ましいものを見る目で見られてる気がする。
「ご、ごめんなさい!こんな立派なお屋敷初めてで……」
やばいやばい。
バクチーニさんが予想外にフレンドリーだからって、つい気を抜いてしまっていた。
幸いなことにこの場にいる人達からは好意的に見てもらえてるみたいだけど、ここはお貴族様のお屋敷。失礼なことしたら首が飛ぶってのを忘れないようにしないと。
「どうかお気になさらず。
このまま応接室までご案内いたします。
奥様がお会いになりますので」
「奥様が?あれ?今日は領主様からのお呼び出しなんじゃ?」
確かもらった手紙にはそう書いてあったよね?
「旦那様は……。今は少々差し障りがございまして」
「そうなんですね。わかりました」
風邪でも引いちゃったのかな?
それで代わりに奥様が会ってくださるのかも。
まぁ、どっちみちお貴族様からの依頼なら断わることなんて出来ないんだろうから、どっちから聞いても同じかな。
そのままバクチーニさんに案内されて通された応接室は、これまたとってもピカピカしてる。
座るように言われたソファはものすごくふかふかしてて座り心地最高だし。
「奥様が来られるまで、しばらくお待ちください」
バクチーニさんはそう言い残して出て行ってしまった。
そう言えば、マナーの先生が言ってたけど偉い人はわざと相手を待たせて後から来るんだっけ。
まぁ、冒険者だって先輩やランクが上の人と組んだら後輩やランクが低い方が先に集合場所に行くもんね。
それと同じことなんでしょ、たぶん。
「どうぞ。お待ちの間にお召し上がりください」
室内をきょろきょろと見渡しながら待っていると、メイドさんがお茶とお菓子を持ってきてくれた。
「すみません、ありがとうございます!」
勢い良く頭を下げながらお礼を言うと、にっこりと笑顔を返してくれる。
お貴族様のところで働いてる人達はなんとなく怖いイメージを勝手に持ってたけど、ここのお屋敷の人達はみんな優しいみたい。
ありがたいなぁと思いつつ、マナーの先生から教わったお茶の飲み方を必死で思い返し、カップに手を伸ばしかけて固まる。
「どうかなさいましたか?」
私が変な体勢で固まってるものだから、メイドさんが心配して声を掛けてくれる。
「あ、いえ!大丈夫です!」
そう答えたものの、本当は全然大丈夫じゃない。
いや、だってさ。このカップめっちゃ高そうなんだよ。
なんか縁が金ピカだし、よく分からないなんかの模様が入ってるし。
万が一にでも割ったりしたら、それだけで首が飛ぶんじゃ……。