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第9話

手を付けないのも失礼かもしれないけど、きっと割っちゃうよりはいいはず。


それならばと、一緒に持って来てくれたお菓子のお皿に目を向けるも、またまた固まってしまう。


「あ、あの。これってもしかして……」


少し声が震えるのも仕方ないと思う。


私の視線の先にある、濃い茶色の固まり。

私の勘違いじゃないなら、これは……。


「はい、チョコレートでございます」


やっぱり!!


「これがチョコレート……。わ、私初めて見ました……」


確か最近他所の国から伝わって来たお菓子で、まだこの国だとお貴族様の中でしか広まってないって聞いた。

すっごい甘くてすっごい美味しいんだって!

そのうち私達でも食べられるようになったらいいね、食べてみたいねってギルドで先輩達と話してたんだよこれ。


「私が食べちゃって良いんですか?」


だってものすごく高いんだよね?

もしかして、この後奥様が来るから奥様用に用意してあるのかも。


そう思って確認したんだけど、メイドさんはそんな私にまたまたにっこりと微笑む。


「こちらはおじょ……アリサ様の為に奥様がご用意されたものです。

どうか遠慮なさらずにお召し上がりください」


「ありがとうございます!!」


やったーー!!マジか!!

ギルド帰ったら、先輩達にめっちゃ自慢出来る!!

なんかメイドさんが私の名前間違えかけてたけど、そんなのどうでもいいや!


「い、いただきます!」


震える手でチョコレートをつまむ。

あ、結構固いんだな。


ドキドキしながら、そっと口に入れる。


その瞬間、口いっぱいに仄かな苦味と甘さが広がる。


「~~~~~~~~っ!!」


何これ何これ!!

言葉が出ないくらい美味しい!!!!


「す、すごいですこれっ!!」


「お気に召して頂けて幸いでございます」


興奮して手をバタバタさせている私に、メイドさんは優しい笑顔を向けてくれる。


「あの、良かったら一緒に食べませんか?」


こんな美味しいものを私一人で食べるなんて、申し訳なさ過ぎる。

そう思ったんだけど、メイドさんは静かに首を振る。


「お気遣いありがとうございます。

ですが、どうかわたくしのことはお気になさらず」


「あ、お仕事中ですもんね……」


そうだよなぁ。仕事中には食べれないよなぁ。

でも、こんな美味しいものを独り占めするのも……うーん、でも食べたいし……。


そんなことを考えて、一人うんうんうなっていた時。

耳が微かな音を拾う。


その瞬間、自分の中でも確かにスイッチが入ったのがわかった。

よし、チョコレートに夢中になってても集中は切れてなかったみたい。


表情を引き締めて、すっと立ち上がる。


突然真顔になって立ち上がった私に、メイドさんがきょとんとした顔を向けたのとほぼ同時に、応接室の扉が静かにノックされる。


「奥様がお見えになられました」


扉の外からバクチーニさんの声が聞こえ、それに答えてメイドさんがゆっくりと扉を開ける。


そうして開かれた扉から、二人のメイドさんを背後に従え、奥様ことクロームズ子爵夫人が室内へと入って来た。

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