手を付けないのも失礼かもしれないけど、きっと割っちゃうよりはいいはず。
それならばと、一緒に持って来てくれたお菓子のお皿に目を向けるも、またまた固まってしまう。
「あ、あの。これってもしかして……」
少し声が震えるのも仕方ないと思う。
私の視線の先にある、濃い茶色の固まり。
私の勘違いじゃないなら、これは……。
「はい、チョコレートでございます」
やっぱり!!
「これがチョコレート……。わ、私初めて見ました……」
確か最近他所の国から伝わって来たお菓子で、まだこの国だとお貴族様の中でしか広まってないって聞いた。
すっごい甘くてすっごい美味しいんだって!
そのうち私達でも食べられるようになったらいいね、食べてみたいねってギルドで先輩達と話してたんだよこれ。
「私が食べちゃって良いんですか?」
だってものすごく高いんだよね?
もしかして、この後奥様が来るから奥様用に用意してあるのかも。
そう思って確認したんだけど、メイドさんはそんな私にまたまたにっこりと微笑む。
「こちらはおじょ……アリサ様の為に奥様がご用意されたものです。
どうか遠慮なさらずにお召し上がりください」
「ありがとうございます!!」
やったーー!!マジか!!
ギルド帰ったら、先輩達にめっちゃ自慢出来る!!
なんかメイドさんが私の名前間違えかけてたけど、そんなのどうでもいいや!
「い、いただきます!」
震える手でチョコレートをつまむ。
あ、結構固いんだな。
ドキドキしながら、そっと口に入れる。
その瞬間、口いっぱいに仄かな苦味と甘さが広がる。
「~~~~~~~~っ!!」
何これ何これ!!
言葉が出ないくらい美味しい!!!!
「す、すごいですこれっ!!」
「お気に召して頂けて幸いでございます」
興奮して手をバタバタさせている私に、メイドさんは優しい笑顔を向けてくれる。
「あの、良かったら一緒に食べませんか?」
こんな美味しいものを私一人で食べるなんて、申し訳なさ過ぎる。
そう思ったんだけど、メイドさんは静かに首を振る。
「お気遣いありがとうございます。
ですが、どうかわたくしのことはお気になさらず」
「あ、お仕事中ですもんね……」
そうだよなぁ。仕事中には食べれないよなぁ。
でも、こんな美味しいものを独り占めするのも……うーん、でも食べたいし……。
そんなことを考えて、一人うんうんうなっていた時。
耳が微かな音を拾う。
その瞬間、自分の中でも確かにスイッチが入ったのがわかった。
よし、チョコレートに夢中になってても集中は切れてなかったみたい。
表情を引き締めて、すっと立ち上がる。
突然真顔になって立ち上がった私に、メイドさんがきょとんとした顔を向けたのとほぼ同時に、応接室の扉が静かにノックされる。
「奥様がお見えになられました」
扉の外からバクチーニさんの声が聞こえ、それに答えてメイドさんがゆっくりと扉を開ける。
そうして開かれた扉から、二人のメイドさんを背後に従え、奥様ことクロームズ子爵夫人が室内へと入って来た。