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第10話

視界の中へ奥様の姿を捉えるよりも早く、頭を深く下げる。


確か声を掛けられるまで頭を上げたらダメ!

マナーの先生がそう言ってた!ありがとう先生!


静かな足音がゆっくりと近付いて来ると、私の正面の席へと腰をおろすのがわかった。


あー、めっちゃ見られてるなぁ。

思いっきりつむじ辺りに視線感じる。


「楽にして。貴女もお座りなさい」


「はい!ありがとうございます!」


女性にしては低い。でも静かで穏やかな声で告げられて、ゆっくりと頭を上げてから私も腰をおろす。


目の前にいたのは、二十代後半くらいに見える黒髪に青い瞳の綺麗な女性。

この方が奥様か。

お母さんと髪や瞳が同じ色だ。私もだけど。

それにお貴族様のご婦人てやっぱり扇子持ってるんだね。

ん?でもアレってもしかして鉄製……いやまさかね。


それにしても、この領が小さいながらも平和で豊かなのは、奥様の力が大きいってよく聞くけど、この方のおかげなんだなぁ。


「今日は突然呼び出してごめんなさいね。

貴女がアリサ?」


「はい!

冒険者ギルドクロームズ支部所属、Bランク冒険者のアリサです!」


「そう」


私の自己紹介に一言で答えると、奥様は後ろに立っていたメイドさん?から何やら書類を受け取る。

ん?メイドさんなのかな。

私にチョコレートくれた人とは少し服装が違うけど。


「では、念の為確認なのだけど」


「はい!」


書類から視線を上げた奥様と、一瞬だけ目が合う。

その瞬間、微かに威圧を感じる。

うわ、すごいな。これが奥様の。領主様の夫人の威圧感か。

特に魔力を込めたりとか何もしてない感じだから、この方そのものが持つ迫力なんだ。


私が膝の上で握った手に微かに汗をかいている中、奥様は再び書類に視線を向けるとゆっくりと口を開く。


「生まれはクロームズ子爵領リノン村で、現在の年齢は十五歳。

母親の名前はサリナ。

ここまででなにか間違いはある?」


「いえ、ありませんけど……」


「そう……」


えっと、これは何の確認なんだろう?

依頼するに当たって、私個人のことも調べたのかな?

お貴族様ならそのくらい慎重になるものなんだろうか。

初めてだから、その辺よくわからないなぁ。マスターに聞いておくんだった。


「十歳の頃に母親の亡くし……。

その後は孤児院に入りながら冒険者としても活動。現在のランクはBランク。

Aランク昇格も目前で既に二つ名持ち……と。

その歳で大したものね」


「ありがとうございます……?」


一応褒められてるのかな?

まぁ、ある程度冒険者で稼げるようになった十三歳の頃には孤児院は出たけどね。

そうすれば私の分の食費とか浮くし。

この領の孤児院は支援もしっかりしてるから食べる物に困ったりはしなかったけど、余裕がある訳でもなかったから。

あ、そう言えばその支援もこの奥様がしてくれてるんだよね。


つまり奥様は私や孤児院のみんなの恩人でもあるのか。

もしかしたら今回の依頼をやることで少しでも恩返しになるかも。それならしっかりと頑張らなきゃ。


「やっぱり貴女で間違いないわね。

ローザ、あれを」


奥様が後ろに立っている服装の違うメイドさん。

ローザさんていうのかな?

その人から、何やら豪華な封筒を受けとると、こちらへと差し出してくる。


「?」


「中を見てご覧なさい」


奥様の行動の意図がわからずにきょとんとしていると、中身を見ろと仰る。

こんなご立派なものを私が見てもいいものかと思うけど、奥様が見るように言ったんだから良いんだよね?


「はい……。えっと……」


言われるままに中身を取り出し、その最初の一枚に目を通す。


「王立貴族学院入学要項?

…………ん?アリサ・クロームズ様??

んん!?」


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