「え?奥様、何を……?」
私がアリサ・クロームズ?
領主様の家族?
いや、そんなはずはない。
私はリノン村っていう小さな村の生まれだ。
それはさっき奥様だって言ってたじゃないか。
十歳までそこでお母さんと暮らしていて、でもお母さんが病で亡くなってしまったから、この領都の孤児院へと入った。
それで、少しでも早く自立したかったから冒険者になったんだ。
思いの外冒険者は私に向いていたみたいで、頑張れば頑張る程に結果も出て。
それで、今はクロームズ支部史上最年少でのAランク昇格を目指して毎日勉強してて。
でも、それだけだと腕が鈍るからたまに辺境伯領まで行ってキャロル達と一緒に狩りをしたりもして。
うん、これまでの人生を振り返ってみても、どこにも領主様一家との繋がりなんてない。
そもそも、お貴族様に関わるのだって今回が初めてなんだから。
「あの、奥様。何かの間違いなのでは?」
たぶん、その時の私の声には、どうかそうであって欲しいという願望も込められていたと思う。
だって、突然そんなことを言われても、どう受け止めていいのかなんてわからなかったから。
しかし、奥様の口からはそんな私の願いをあっさりと否定する言葉が紡がれる。
「アリサがそう思いたいのも理解は出来るわ。
でもね、わたくしも慎重に慎重を期して調べたのよ。
その結果、貴女がアリサ・クロームズで間違いないという結論に至ったわ」
「……そうですか」
うん、そうなんだろうね。
この奥様がそんなウソを言う方じゃないっていうのは、これまで聞いたことのある奥様の噂や、今日実際に会って少しだけとは言え話した印象からも感じられるし。
「アリサは、サリナから父親のことは何か聞いてるかしら?」
奥様の言葉に首を横に振る。
こんな答え方失礼だってわかってはいるけど、色々といっぱいいっぱいでそんなことまで気にする余裕なんてなかったから。
「貴女の父親はね、ディオット・クロームズ。
現クロームズ子爵であり、この地の領主を務めているおおば……男よ」
「領主様がお父さん……」
たぶん、これもすごく驚くべきことなんだろうけど、ここまでの話で既に許容量を超えてるからかな。
不思議とそうなんだっていう感想しかわかない。
でも、だからだったのかな。
お母さんがお父さんのことだけは私がどれだけ聞いても一度も答えてくれなかった理由って。
いつも穏やかな人だったのに、何故かお父さんのことを聞いた時だけ雰囲気がすごく怖くなるから、私もいつの間にか聞くのをやめてしまったけど。
あれ?でも領主様の奥様は今ここにいるよね?
もちろん、奥様は私の母親じゃない。
お母さんや私とは髪や瞳の色は同じだけどそれだけだ。
だけど、私のお父さんが領主様だって言うのなら……。
「お母さんは領主様の浮気相手だったのですか?
……私は、不義の子なんでしょうか」
そういうことだよね?