202X年11月4日
朝の風が少し冷たく感じる季節になってきた。
「秋」といえば読書の秋、スポーツの秋、でも……やっぱりボクは食欲の秋が一番好き。
お母さんも、食べるのが大好きだ。
でも、お風呂上がりにバスタオルで身体を隠しながら、体重計に乗るのが毎日の習慣になっていた。
「やだわ……また3キロも増えちゃった」
お母さんは十分スリムだけど、どうしても体重が気になるらしい。
ボクにはよくわからないけど、大人の女性ってそういうものなんだって。
「決めた!今日からダイエットするわよ!」
お母さんは目をキラキラさせていた。
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翌朝。
お母さんは新しいスニーカーにジャージ姿で、やる気満々だった。
「一緒に走るわよ、ボク!」
ボクもついていくことにして、一緒に近所のランニングルートを走った。
空気が澄んでて、風も気持ちよかった。しばらく走っていると、前からジョギングしていたお兄さんとすれ違った。
「おはようございます。お互い無理せずがんばりましょうね」
「ええ、がんばりましょう」
「この辺りはちょっと特殊で……疲れやすいので、気をつけてください」
にこやかに言い残して、お兄さんは走り去った。
ボクは「つかれやすい」って言葉がちょっと気になったけど、
走っているうちに、そんなことはすぐ忘れた。
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1週間後。
お母さんはストレッチもジョギングも、食事制限も本気でがんばっていた。
なのに。
「……おかしいわ……また増えてるの……?」
その日は、体重計を何度乗り直しても、数値がどんどん増えていった。
「ボク、最近私……動くのがちょっと、しんどいの」
お母さんの表情は暗かった。
お肌の色もどことなく青白くなってきて、歩くのも少し遅くなった。
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1ヶ月後には、
お母さんはご飯もほとんど食べなくなって、誰かに取り憑かれたみたいに無表情になった。
「これだけ我慢してるのに……減らない……」
体重計に乗ったそのとき。
「ピピ……エラー」
バキンッ!と音を立てて、体重計が壊れた。
お母さんの足元がグラッと揺れて、そのまま倒れた。
救急車を呼んだけど、
救急隊の人が、お母さんを持ち上げられなかった。
「なにかおかしい……」
応援の人たちも加わってようやく運んだけど、病院のベッドもギシギシ鳴って、すぐに壊れてしまった。
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お母さんは今も、病院の特別室にいる。
でも、毎日どんどん……重くなっていく気がする。
ボクも同じルートを走っていたはずなのに、
どうしてお母さんだけ……?
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体重計 完
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ここからネタバレ解説と考察だよ。
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ネタバレ解説と考察(意味がわかると怖い話)
• 「疲れやすい」と言っていたジョギングルートは、実は**“憑かれやすい”場所**。
• お母さんは「痩せたい」「軽くなりたい」と強く願っていたため、その“何か”に取り憑かれてしまった。
• 「努力しても体重が増える」「体が重くなって動けない」「ベッドや体重計が壊れる」といった描写は、**物理的な質量以上の“霊的な重さ”**を暗示している。
• 食事制限も運動も意味がないどころか、“軽くなる”ことへの執着が重さを増していく呪い。
• ボクが無事だったのは、無欲だったからか、それとも……まだ“軽い”から?