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第3話「私ノ刑」

 19XX年7月12日


 ここは「独裁国家」。

 名前も地図にも、もう存在しないと言われている国。


 ボクはここに生まれ、育ち、そして今日――

「処刑裁判」に立ち会うことになった。


 この国では、「罪人」は皆、**自分で自分に科す罰=“私刑(しけい)”**を言わなければならない。


 ただし、甘くない。


 どんな私刑でも、ノルマ未達なら即・死刑。

 逆らっても、同じく死刑。


 つまり、選んでも選ばなくても、命を懸けることに変わりない。


 ⸻


 今日も広場には独裁者の玉座があり、目の前で罪人たちが自分の刑を言わされていた。


「よし!次!おまえ、自分の刑を言え!」


「……はい!えっと……映画を、24時間、ノンストップで視聴する刑でお願いします!」


「ふむ。よかろう。次!」


 観衆は無表情だった。

 感情を持つことは、この国では……危険なことだから。


 ボクの順番がどんどん近づいてくる。

 緊張で手が震える。


 だが――


 ボクのすぐ前の青年が、不思議なことを言い出した。


「えーっと……“手を挙げた者が、私ノ刑になります”」


 会場がざわついた。

 独裁者が眉をひそめる。


「……なに? もっと具体的に言え」


 すると彼は、静かに微笑んで、こう言った。


「“この国の独裁者になる”という、刑罰です。」


 独裁者の顔が凍りついた。


 会場も、凍りついた。


 私刑は絶対。


 たとえ、独裁者であっても。


 沈黙の中、独裁者が、フッと鼻で笑って、手を挙げた。


「この国の独裁者は、私だ。誰にも渡さん。私が、その刑を受けよう」


 青年は微笑んで、うなずいた。


「では、喜んで……**“私ノ刑”**を差し上げますね」


 その瞬間、独裁者の顔が青ざめた。


 ⸻


 その日のうちに、独裁者は広場から姿を消した。

 誰も、何も説明しなかった。


 数日後、青年は「大統領」となり、私刑制度を撤廃し、選挙による新政権を樹立した。


 国民は彼を「英雄」と呼び、ボクも、彼に憧れるようになった。


 それでも時々、ボクは思い出す。


 あの時、青年があんな「刑」を言わなければ、何も変わらなかった。

 だけどあれは、“罰”だったのか?

 それとも――“仕掛け”だったのか。


 ⸻


 私ノ刑 完


 ⸻


 ここからネタバレ解説と考察だよ。

 カウント0になるまでスクロールしてね。



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 ネタバレ解説・考察(意味がわかると怖い話)

  • 彼が言った「私ノ刑」は、一見「自分が独裁者になる罰」に見えるが、真意は**「その刑を望んだ者=手を挙げた者が刑に処される」**という仕掛け。

  • 独裁者は「誰にも渡さぬ」と手を挙げることで、“私ノ刑”にハマってしまった。

  • つまり、“私ノ刑”とは、**「刑そのものに引き寄せられた者を罰する」**トラップであり、自らの強欲で独裁者は処刑された。

  • 青年は法に逆らうことなく、制度の矛盾そのものを利用して、独裁体制を終わらせた。

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