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第4話「肖像画」

 20XX年 5月8日


 ボクの部屋には、ずっと昔からある一枚の絵が飾られている。

 西洋風の金髪の少年が、遠くを見つめている肖像画だ。


 おかしな話だけど、

 その少年は「ボクがモデルだ」と家族は言う。


 でも、どう見たって違う。

 ボクは黒髪に黒い瞳の、どこにでもいる日本の小学生。

 あの金髪碧眼の少年なんて、ボクとは真逆の見た目だ。


 なんとなく、あの絵の前では、いつも背中がゾワッとする。

 でも生まれたときからあるものだし、気のせいって思ってた。


 ――あの日までは。


 ⸻


 その夜、ボクはぐっすり眠っていた。

 はずだった。


 ふいに体が重くなって、動かなくなった。


 金縛り――というやつなのかもしれない。


 怖くて、目だけをゆっくりと開けると、

 ベッドの足元に、見覚えのある金髪の少年が立っていた。


 何も言わない。ただ、無表情でボクを見つめていた。


 ――やばい。


 胸の奥で直感が叫んでいた。

 逃げなきゃ。だけど、動けない。


 ただ、指先が少しずつ動いてきた。


 ボクは力を振り絞って、横に置いてあった分厚い英和辞典を掴み、

 そのまま、全力で――投げた。


 ガツン!


 鈍い音がして、少年は驚いたように一歩引いた。

 次の瞬間、スーッと薄れて、姿を消した。


 ⸻


 次の朝。


 起きると、いつもより部屋が静かだった。

 ボクはカーテンを開けて、朝の光を取り込んだ。


 そしてふと、壁の肖像画を見た。


 ――なんか、違う。


 昨日までと明らかに違うところが、ひとつだけあった。


 少年の顔。

 右のまぶたが赤く腫れていた。


 見間違い……じゃない。

 その目は、ボクが投げた辞書が当たったちょうどその場所だった。


 さすがに気味が悪くなったボクは、お父さんに頼んで、

 その肖像画を燃えるゴミに出してもらった。


 それから、ボクの部屋は――

 誰かの「気配」なんて、まったくしなくなった。


 たぶん、今ごろはもう灰になってるんじゃないかな。


 ⸻


 肖像画 完


 ⸻


 ここからネタバレ解説と考察だよ。

 カウント0になるまでスクロールしてね。



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 ネタバレ解説・考察(意味がわかると怖い話)

  • ボクの部屋にあった肖像画は「金髪の少年」だったが、なぜか「ボクがモデル」と言われていた。

  • 寝ている間に現れたのは、絵の中のその少年であり、ボクに強く執着していた存在と思われる。

  • ボクが金縛り中に投げつけた辞書は少年に直撃し、翌朝その絵の少年のまぶたに赤い腫れができていたことで、それが絵の中の存在であったと裏付けられる。

  • 絵を処分してから「人の気配」がなくなったのは、長年ボクに取り憑いていたものが去った証拠。

  • 「自分とは似ても似つかないのに、なぜモデルがボクだと言われたのか」という違和感も、ボクと何か深い縁があった存在であることを暗示している。

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