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第6話「木の鳥」

 20XX年8月15日


 夏休みの真ん中の日。

 今日は朝から空がとても青くて、雲も白くて、セミの声がずっと鳴いていた。


 ボクの家のすぐそばには、昔からある空き地があって、そこには一本の大きな木が立ってる。

 まっすぐ天に伸びた、どこか堂々としたその木は、ボクが生まれるよりもずっと前から、そこにあったらしい。


 でもね、この8月15日って日になると――


 ものすごい数の鳥たちが、いっせいにその木に止まるんだ。


 本当に、空からばさばさと舞い降りてきて、枝って枝にびっしり。

 スズメだけじゃない。カラスやハトや、見たことのない鳥まで、全部。


 最初に見たときは、ボクびっくりして「なんであんなに集まってるの?」って思った。


 おじいちゃんに聞いてみたら、しばらく黙ってから、静かにこう言った。


「昔、あのあたりで――大勢の人が亡くなったんだよ」


 それだけ。

 それ以上は、教えてくれなかった。


 ボクにはあまりよくわからなかったけど、なんとなく、おじいちゃんの目がちょっとだけ涙ぐんでたのを覚えてる。


 ボクは、もしかして鳥たちは、そこに来ると安心できるのかなって思った。

 だって、あんなにたくさん集まるなんて、まるで“帰ってきてる”みたいだから。


 そうそう、一度ね、町の人たちがあの木を切ろうとしたことがあったらしいんだ。

 でも、そのとき――


 鳥たちがいっせいに襲いかかってきたんだって。


 鋸(のこぎり)や斧を持った人たちが、逃げるようにして撤退したって聞いた。


 それからは、誰も近づかない。


 そして今年も、8月15日になると…

 空を覆い尽くすように鳥たちが降ってくる。


 ボクはただ、それを黙って見ていた。

 木の上に止まる無数の鳥たちは、まるで何かを守ってるようにも見えた。


 ⸻


 木の鳥 完


 ⸻


 ここからネタバレ解説と考察だよ。

 カウント0になるまでスクロールしてね。



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 ネタバレ解説・考察

  • 日付が「8月15日」というのは、日本では終戦記念日。過去にその場所で「戦争」によって多くの人が亡くなったと示唆されている。

  • 大量の鳥たちは、命を落とした人々の魂が転生した姿、あるいはその霊に呼ばれて集まってきたと考えられる。

  • 「木を切ろうとしたら襲われた」というエピソードから、あの木が何かの慰霊の場や封印の役割を果たしているとも読み取れる。

  • 無邪気なボクの語りが、真相をぼかしつつ、余韻のある「怖さ」を際立たせている。

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