20〇〇年 1月3日
お正月最後の日。
朝から雪がしんしんと降って、庭の木や塀が真っ白に染まっていた。
ボクはこたつに潜りこんでいた。
ぬくぬくと足を伸ばして、みかんを食べていると、お父さんとお母さん、そして山おじさんも順番にこたつへ入ってきた。
「ん?冷たっ……なんか当たったぞ」
お父さんが足を引っ込めた。
「ミーコかしらね」
お母さんが言う。
ミーコはボクの家で飼っている猫だ。
よく外で遊んでいて、寒い日はこたつの中に潜り込んでくる。
「くすぐったいよ、ミーコ。舐めるなよ~」
お父さんはくすぐったそうに笑っていた。
と、ボクは急にもよおしてトイレに立った。
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廊下を抜けて玄関まで来た時、ふと視界に何かが映った。
玄関のたたきの上──そこに、ミーコがちょこんと座っていた。
「あれ……ミーコ?お前、こたつにいたんじゃないの?」
ミーコは寒さに震えながら、小さなくしゃみをした。
凍えた体をふるわせて、ボクの横をすり抜け、ダッシュでこたつのある居間へ走っていった。
ボクはぼんやりしながらトイレを済ませ、居間へ戻った。
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「フシャーッ!!」
こたつの前で、ミーコが体をふくらませて威嚇していた。
背中を丸め、毛を逆立てて、こたつに向かってうなっている。
「おいおい、どうしたんだ?」
お父さんがこたつから足を引っ込めようとしたその時──
「いっ……痛っっ!!」
お父さんが悲鳴を上げて足を抱えた。
足の甲にはくっきりと噛み跡が残っていた。
それは猫の歯形にしては……妙に細く、長い。
まるで、子どもが歯を食いしばったような人間の歯形だった。
「ちょっと見せて!……ねえボク、こたつの布団をめくって中を確認してちょうだい」
お母さんに言われ、ボクはゆっくりとこたつの布団をめくった。
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中は暗かった。
暗くて、じっとりと湿っていた。
ミーコならいつも奥で丸まってるはずだが──何もいない。
奥を覗きこみ、手で探っても何も当たらない。
「いないよ?」
ボクが言うと、お父さんとお母さんも代わる代わる覗き込んだ。
その時だった。
こたつの奥の壁のような場所に、**薄くて冷たい“シミ”**のようなものが広がっているのに気づいた。
「……ここ、濡れてるな」
お父さんが触れて、指先を見つめた。
黒く、ぬめっとした液体がついていた。
「さっきまで舐めてたの、ミーコじゃなかったのかも……」
お母さんの声が小さく震えていた。
その日以来、ミーコは二度とこたつの中に入ろうとしなかった。
居間に入るだけで、尻尾を下げてうなり、こたつには決して近づかなかった。
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電気こたつ 完
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ここからネタバレ解説と考察だよ。
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【ネタバレ解説・考察】
最初にこたつの中で足に触れた“何か”は、ミーコではなかった。
ミーコは玄関にいた=こたつの中にいたのは別の存在。
それは、冬の死者か、寒さで凍えた何かの怨念か。
ぬくもりを求めてこたつに潜り、足を舐め、噛みつき、そこに居座っていた。
こたつの中が「じっとり濡れていた」のは、その存在が人ではない証。
湿気や霊的な“気配”が残っていた。
そして──
ミーコだけが、その正体に気づいていた。