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第12話「電気こたつ」

 20〇〇年 1月3日


 お正月最後の日。

 朝から雪がしんしんと降って、庭の木や塀が真っ白に染まっていた。


 ボクはこたつに潜りこんでいた。

 ぬくぬくと足を伸ばして、みかんを食べていると、お父さんとお母さん、そして山おじさんも順番にこたつへ入ってきた。


「ん?冷たっ……なんか当たったぞ」

 お父さんが足を引っ込めた。


「ミーコかしらね」

 お母さんが言う。


 ミーコはボクの家で飼っている猫だ。

 よく外で遊んでいて、寒い日はこたつの中に潜り込んでくる。

「くすぐったいよ、ミーコ。舐めるなよ~」

 お父さんはくすぐったそうに笑っていた。


 と、ボクは急にもよおしてトイレに立った。


 ⸻


 廊下を抜けて玄関まで来た時、ふと視界に何かが映った。

 玄関のたたきの上──そこに、ミーコがちょこんと座っていた。


「あれ……ミーコ?お前、こたつにいたんじゃないの?」


 ミーコは寒さに震えながら、小さなくしゃみをした。

 凍えた体をふるわせて、ボクの横をすり抜け、ダッシュでこたつのある居間へ走っていった。


 ボクはぼんやりしながらトイレを済ませ、居間へ戻った。


 ⸻


「フシャーッ!!」

 こたつの前で、ミーコが体をふくらませて威嚇していた。

 背中を丸め、毛を逆立てて、こたつに向かってうなっている。


「おいおい、どうしたんだ?」

 お父さんがこたつから足を引っ込めようとしたその時──


「いっ……痛っっ!!」

 お父さんが悲鳴を上げて足を抱えた。


 足の甲にはくっきりと噛み跡が残っていた。

 それは猫の歯形にしては……妙に細く、長い。

 まるで、子どもが歯を食いしばったような人間の歯形だった。


「ちょっと見せて!……ねえボク、こたつの布団をめくって中を確認してちょうだい」

 お母さんに言われ、ボクはゆっくりとこたつの布団をめくった。


 ⸻


 中は暗かった。

 暗くて、じっとりと湿っていた。


 ミーコならいつも奥で丸まってるはずだが──何もいない。

 奥を覗きこみ、手で探っても何も当たらない。

「いないよ?」

 ボクが言うと、お父さんとお母さんも代わる代わる覗き込んだ。


 その時だった。

 こたつの奥の壁のような場所に、**薄くて冷たい“シミ”**のようなものが広がっているのに気づいた。


「……ここ、濡れてるな」

 お父さんが触れて、指先を見つめた。

 黒く、ぬめっとした液体がついていた。


「さっきまで舐めてたの、ミーコじゃなかったのかも……」

 お母さんの声が小さく震えていた。


 その日以来、ミーコは二度とこたつの中に入ろうとしなかった。

 居間に入るだけで、尻尾を下げてうなり、こたつには決して近づかなかった。


 ⸻


 電気こたつ 完


 ⸻


 ここからネタバレ解説と考察だよ。

 カウント0になるまでスクロールしてね。



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【ネタバレ解説・考察】


 最初にこたつの中で足に触れた“何か”は、ミーコではなかった。

 ミーコは玄関にいた=こたつの中にいたのは別の存在。


 それは、冬の死者か、寒さで凍えた何かの怨念か。

 ぬくもりを求めてこたつに潜り、足を舐め、噛みつき、そこに居座っていた。


 こたつの中が「じっとり濡れていた」のは、その存在が人ではない証。

 湿気や霊的な“気配”が残っていた。


 そして──

 ミーコだけが、その正体に気づいていた。

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