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第3話 占い師

「あなたは人間嫌いなんですよ。だから小説家と名乗りながら小説が書けないんです」

占い師はそういい、水晶玉から顔を上げる。

私は「そんなことは自分でもわかっている」と思う。

占い師は続ける。「まずは人を好きになって人を観察することです。そうすれば自然と書きたいものが浮かんできますよ」。

占い師は話をやめたがっている。そして、水晶玉に布をかけ始める。

私はそれを止めるように、「人を対象にしない小説もあるでしょう? たとえば動物が主人公のものだってあるでしょう。私はそういうものを描きたいのかもしれない」と食い気味に畳みかける。

しかし占い師は、手を出し、金を要求する。

私は渋々2千円をポケットから出し、くしゃくしゃのまま、その手に乗せる。

占い師は、札をしまいながら、「あなたは売れないよ」とぼそっとつぶやく。

占い師が当たっていることは私もわかっている。そして、占い師の方がもうけていて、私の方がカモだということもわかっている。

ただ、自分が思っていることを自分はしゃべれないというのも本当なのだ。

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