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第4話 酒

「酒は百薬の長なんだ」と酔っ払いが話しているのを、近くの席から聞くとなしに聞く。

私も酔いが回ってきて、彼のどうでもいい話が本当にどうでもよくなる。

もし素面だったら、「何が百薬の長なんだ! 害しかないじゃないか!」などと突っかかっていたかもしれない。

実際、私はアルコールにいい思い出がない。

先日も、酔っ払って外で寝てしまい、3万円をすられたばかりなのだ。

気づくと、じょうぜつに話していたその客も眠ってしまっている。

店内は馬鹿馬鹿しい笑い声が響いている。どの客も何が楽しいのかもわからずそうしているに違いない。

私はそう思うと急に酔いが覚め、伝票を持って財布を探す。

しかしそこで、財布がないことに気づく。私は冷や汗が出てきて、頭がぐるぐるする。

オロオロしていると、ふとあの酔っ払いのことが目に入る。

確か数十分前に札束を見せびらかしていたのだ。

私は店を出るふりをしてそうっと彼に近づき、ポケットを探る。

案の定、札が手に当たる。

私はすぐさまそこを離れてレジに向かう。

「お会計5340円になります」と店員がいうのを、私はすり取った札を差し出す。

しかし「お客様、ご冗談でしょう?」と店員がいう。

カルトンをよく見ると、ふざけた文字で、「お前は泥棒だ」と書いてある紙片が乗っかっている。

私はさらに汗をかいて、店員の制止も振り切り、外に走り出す。

繁華街を走る中で私はあの男の話を思い出す。

確かに、あの男は人気マジシャンだと口にしていたのだ。

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