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とんかつ

 金曜日、仕事を終えると自由になれる。


 明日明後日と、好きなことをして過ごすことができる。


 でもその前に、明日は休みということで夕食はどこかに食べに行こうかなってことで――。


「今週はなに食べんの?」


 高校から付き合いのある私の親友、赤木千梅あかぎちうめちゃんに来ていただきましたあ!


 お互い違う大学を出て、社会人をすることもう四年経っている。その四年間、いや、大学生の頃から、金曜日とか土日の休みの日は定期的に千梅ちゃんとご飯に行っている。


 外食だけじゃなくて、ピクニックとか食べ歩きとかまあ色々。私が外で食べる時は常に千梅ちゃんと一緒にいたと言っても過言ではない。


「今日はねえ、ってもう分かってるじゃーん」


 私達はとんかつ屋さんに来ている。


「まあね」


 千梅ちゃんはふっと笑う。切れ長の目を持っている千梅ちゃんがすると結構様になる。


 実はもう、私も千梅ちゃんも注文を終えているのだ。


 お待たせしましたと、店員さんが持ってきてくれたのはとんかつ定食。


 ホカホカの真っ白なご飯に、ちょこっとだけ頭を出す豆腐の入った味噌汁。そして大きなお皿に六つに切られた、私の顔ぐらいはある大きな黄金色に輝く揚げたてのとんかつ。そのとんかつがもたれかかるのは細切りにされたキャベツの山だ。そして小鉢に入れられたミニトマトとお漬物もまた可愛い。


「美味しそぉ……」

「もう紗衣花の顔見るだけで美味しいわ」

「私も、美味しそうに食べる千梅ちゃんを見て食べると更に美味しいんだよねえ」

「相乗効果だね」


 確かに、美味しそうに食べる私を見て、千梅ちゃんが美味しく食べる。その美味しそうに食べる千梅ちゃんを見て、私も更においしく食べることができる。それが繰り返される……やっぱり、誰かと食べるのって良い!


 私は溢れる涎を漏らさないように、早速手を合わせて食べることにする。


「いただきます!」

「いただきます」


 まずはキャベツから……といきたいけど、どうしてもとんかつを食べたいから、真っ先にとんかつから口に運ぶ。


 唇に触れたとんかつはまだ熱を持っていて、口に入れて噛むとサクッと気味の良い音を立てる。じっくり揚げられた豚肉から旨味が溢れる。


「美味しい……‼」

「ホントだ、ソースかけなくても美味しい」


 私に倣ってなにもかけていないとんかつを食べて笑顔になる千梅ちゃんを見て、更に美味しくなる。


 私は次にご飯を食べる。一つひとつ粒が立っていて舌触りが良くて嚙めば嚙むほど甘みが出てくる。しゃきっとしたキャベツは重くなった口をサッパリさせてくれるし、熱々の味噌汁は味に変化を与えてくれる。丸く大きなミニトマトはみずみずしく、お漬物もそれだけで立派な一品の料理だ。


 お箸が止まらないよ!


 今度はソースをかけてとんかつを食べる。


 まろやかで酸味のあるソースが、とんかつの旨味をギュッと引き締めてくれる。


 サクサクと、あっという間に平らげでしまった。


「お腹いっぱーい」

「あたしも満足、美味しかった。紗衣花とご飯食べるのが毎週の楽しみだね」

「私も千梅ちゃんと食べるのが一番好き」


 えへへと笑い合って、お腹も心もいっぱいだ。


「「ごちそうさまでした」」

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