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アップルデニッシュ

 金曜日の夕方、明日から休みだとうきうきしながら帰る途中、私は空腹に見舞われた。


 なにか食べたい……なにか食べたいよう……もう家の近くだし、千梅ちゃんももうこの時間なら夕食済ませているだろうし、あとパンが食べたくなってきた。でも、近所にパン屋さんは無くて、あるのはコンビニ。


 ……よし、コンビニパンを食べよう!


 一人暮らしの部屋の中で一人ちゃぶ台の前正座をして買ってきたパンを見る。


 ――アップルデニッシュ。それが、私がコンビニで買ってきたパンだ。中にカスタードが入っている、顔よりも大きなパンを見ると、口の中から唾液が溢れ出そうになる。


「いただきます」


 手を合わせて、パンの袋を破る。小麦色に戻ったアップルデニッシュにかぶりつく。


 柔らかい生地、そこから染み出すようにりんごとカスタードの味がする。パン屋さんのサクッとしたデニッシュももちろん好きだけど、市販の袋入りパンのデニッシュ生地も好きだ。


「美味しい~」


 食べたいときに食べたい物を食べる。これ幸せ。


 千梅ちゃんも一緒だったらもっと美味しいかなって考えたけど、食べさせてくれそうにないかも……。


「わっ、びっくりした」


 突如鳴りだしたスマホを見ると、千梅ちゃんからの電話だった。


 ちょっと悪態とまでもいかないけど悪態ついちゃったからかな……?


「もしもし……?」

『おっ、出た。今ちょっと大丈夫?』

「う、うん。大丈夫だよ」

『……どうしたの?』

「いやいや、なんでもないよ! 急にどうしたの? 電話なんて」

『たまには電話もしたくなるよ。まあそれは置いておいて、明日、ご飯食べに行こうよ』

「なんだぁ、そういうことか」

『そういうことってなによ?』

「ううんなんでもない! 行こ行こ! ちょうど今千梅ちゃんとご飯食べたいなって考えてたとこだから!」

『ええーそれは嬉しいな。じゃあまた明日。なに食べるかはその時決めようよ』

「分かったー」

『それじゃ、いつもの場所で明日の十時に集合ね』

「はーい」


 そして通話を終了する。


 私はベッドの上にダイブして、スマホを胸に抱える。


「えへへ~、千梅ちゃんとご飯だー」


 多分、今の私はすっごく情けない顔をしていると思う。千梅ちゃんとご飯食べに行きたいなって思ってたらまさか食べに行くことができるなんて。幸せだ。


 そうと決まれば早くお風呂入って早く寝なくちゃ! この楽しみを待っている時間は凄く好きだけど、それと同時に凄く辛かったりするから。すっごくお腹が空いている状態で、テレビで最高級ステーキが焼かれているのを見る気持ち。


 やっぱり週末って幸せだ。


 いくつもの幸せは重なり合って、最高の幸せになる。


「えへへ~、千梅ちゃんとご・は・ん。楽しみ~」

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