sideシャルルダルク
俺はそのまま薬部屋で書物を読んでいた。
何という事のない財務に関わる参考になる書物であった。
「やぁ、兄上もいらしていたのですか?」
レガットがやってきた。
「残念だが、マリーナはもう居らぬぞ。」
俺は言う。
「あぁ、確かに残念ですが…
今回は兄上に話があるのですよ。」
「ふん。
俺はお前と話す事など無い。」
俺は書物から目を離さずにそう言った。
しかし
「マリーナの過去に関する事でもですか?」
レガットは言った。
「過去…?
どこかの貧乏商人から売られたのでは無いのか?」
俺は書物を閉じてそう言った。
「いいえ、マリーナは元貴族ですよ。」
「なんだと!?」
「不思議には思いませんでしたか?
そつのない喋り方といい、マナーといい…
それで、少し調べてみたのです。」
「なぜ、貴族が奴隷として売られるのだ…?」
俺は言う。
「マリーナはセイント国の侯爵令嬢でした。
しかし…」
「しかし?」
「偽証罪と不敬罪で貴族位を剥奪、奴隷として国外追放されたようです。」
レガットは言う。
「偽証罪に不敬罪?
マリーナが、か?」
俺にはどうも腑に落ちなかった。
「えぇ、オレもそう思って色々と調べてみたのですよ。」
「どうだったのだ?」
「マリーナはどうも婚約者の伯爵ベルゼ=ライラックに陥れられた節がありますね。」
「陥れられた…?」
「ベルゼは親達の都合でマリーナと婚約したものの、好きな女子がおったようですね。
その証拠にマリーナと婚約破棄すると、その女と婚約し直しております。
つまり、マリーナと結婚したくなかったベルゼはマリーナの罪をでっち上げた…
まぁ、その辺はオレの憶測に過ぎませんが…」
レガットは言う。
「その続きは俺が調べさせよう。」
俺は言う。
「しかし…」
レガットは何とも言えない表情で言う。
「なんだ?」
「マリーナは果たしてベルゼの罪を暴く事を望んでいるのでしょうか?」
「当たり前であろう。
自分を陥れたなら、憎いはずだ。」
「はぁ…
兄上は女心が分かっておられぬ…
マリーナはいまだにベルゼを好きなのではないでしょうか?」
レガットは言った。
しかし、それは俺に衝撃を与えるには十分だった。
「もう、過去の相手であろう!?」
「本気で好きであったなら、そう簡単に割り切れませぬ。
果たして、ベルゼの罪を暴くのが正しいのか、どうなのか…?」
レガットは言う。
「では、どうすれば良いのだ?」
「とりあえず、調査だけ進めておいて、マリーナの決心が付いたら、ベルゼに罪を償ってもらう、という方法が1番よいかと…」
「…そうだな。」
そして、レガットは去っていった。