次の日、私はまた忙しく調合している。
相変わらずシャルルダルク様が居るが、シャルルダルク様は居るだけで話しかけてこなかったし、私も黙って調合していた。
「そなた…」
「はい…?」
「レガットとの…その…オペラは…」
「楽しゅうございました。」
「ではなくて…」
「は?
分かりませぬ、はっきり言ってくだされ。」
「何かなかったのか?
ほら、その、口づけを交わすとか、胸を揉まれるとか…」
「どこの野蛮人でございますか?
レガット様は紳士でございますゆえ。」
「ふぅん?
何も無かったのか。
そうか!」
シャルルダルク様は機嫌が急に良くなった。
「ところで、さっきから何を作っておるのだ?」
「白粉でございます。
この後宮では皇貴妃様に限らず、皆、鉛や水銀の白粉を使っておりまする。
つまり、毒を塗りたくっておるのです。
そこで、オシロイバナという花の実をすりつぶし、その澱粉質を使った、植物性の白粉を作っておるのでございます。
エリアス様とダーニャ様に持って行くのでございます。」
私は説明する。
「そなたは他人の為によう働くなぁ…
俺には真似できぬよ。」
シャルルダルク様はおっしゃる。
「……シャルルダルク様は外交と財務を取り扱っておるとか。
立派に他人の為に働いておるかと存じまするが…」
「はっはっはっ!
そう言われればそうだな!
気づかなんだったわ!」
シャルルダルク様は豪快に笑う。
「では、私はダーニャ様とエリアス様の元に行きますゆえ。
薬部屋にまだいらっしゃるなら、鍵を置いておきまする。」
「あぁ、もう少しおる。」
そんな訳で私は薬部屋をでて、まずは、エリアス様の元に向かった。
「あら、マリーナ。
ちょうど良かったわ。
ちょっと採寸させて頂戴な。」
エリアス様がそう言うと、女官達が、身幅や丈を計り出した。
「あなたに紫陽花の会用のドレスを仕立てていてよ。ふふっ。」
「そんな…
私は何でも…」
「ダメよ。
召使いだと分からないぐらいに着飾らなくては。
出来たら届けさせるわね。
あら、そのカゴは?」
エアリス様が尋ねる。
「植物性の白粉でございます。
肌に優しいゆえ、できものなども出来なくなり、ツルスベ肌になりまする。」
「あら、皇貴妃様も使ってらっしゃるという噂の白粉ね?
嬉しいわ!
いくらかしら?」
「は?
いえ、お金など…
ドレスも仕立てて頂いておりますれば…」
「あなたの薬には価値があります。
では、金貨3枚を。」
エリアス様は遠慮する私に半無理矢理に金貨を渡された。
ダーニャ様もタダでは受け取れぬと、お金をいただき、私はなんとなく悪いことをしてしまった気分で召使いの部屋にもどっていった。