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第23話 オペラの夜

そして、その日の夜、レガット様と私はオペラに向かった。


題目は『オペラ座の妖怪』だった。


私たちは個室の1番良い席に通され、そこからオペラ座の妖怪を観た。


ヒロインが歌うシーンでは、感動し、妖怪から解放されたシーンで、私は涙した。


そんな私をレガット様は物珍しそうに見ていた。


「オペラより、そなたを見てる方が面白いようだ。」


レガット様は笑いながらそう言った。


「レガット様はオペラを見て、泣いたり、笑ったりせぬのですか?」


「オレは王子だ。

王位継承者ではなくても、王は泣いてはならぬのだ。」


「……それは間違っております。」


「なに?

オレの考えが間違いだと言うのか?」


「悲しい時に泣き、嬉しい時に笑うのが、人というものでございまする。

王は人民の悲しみや痛み、そして喜びを分かち合う者である、と私は思いまする。


レガット様、辛い時は泣いてもいいのでございます。


私は本音で笑い、話すレガット様が好きでございます。」


ん?

好きという表現は違うか?

と、思ったが、言ってしまったものはしょうがない。


「はっはっはっはっ!

こんな年下の娘に道理を説かれるとは思わなんだわ!


そうか、泣いても…よい…か…」


レガット様はそれ以降はオペラに集中しているようだった。


最終章で、少し目が潤んでいたのは、私の胸に仕舞っておこうと思った。


「はぁ…

良きオペラであった!」


オペラ座からの帰り道、レガット様は少し伸びをしながら言った。


「はい。

感動いたしました!」


私は微笑んだ。


「マリーナ、そなたを誘ったのは、兄上に対する当て付けであった…」


レガット様はおっしゃった。


「なんとなく気づいておりました…」


「しかし、今思う事は、今日のオペラをそなたと観れて良かったという事だ。

すまぬ…」


「いいえ、私はすまぬよりも、ありがとうの方が好きでございます。」


「ふっ…

そうか、ありがとう、マリーナ…」


そして、レガット様は花屋で紫のライラックの花束を買い、私に渡した。


花言葉は…


『恋の芽生え』


「レガット様、この花の花言葉を知っておるのですか…?」


「知っている、と言ったら?」


「では、受け取れませぬ。」


「なぜ?

兄上が好きなのか?」


「分かりませぬ。

私はこう見えて複雑なのでございまする。」


ベルゼのアホとシャルルダルク様の顔が浮かんだ。


シャルルダルク様を好きとも言えなかった。


「どうせ複雑ならば、これも受け取ってくれぬか、マリーナ。」


「お気持ちには…」


「よい、今は受け取ってくれるだけで…」


レガット様は私の手を取り口づけた。




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