そして、その日の夜、レガット様と私はオペラに向かった。
題目は『オペラ座の妖怪』だった。
私たちは個室の1番良い席に通され、そこからオペラ座の妖怪を観た。
ヒロインが歌うシーンでは、感動し、妖怪から解放されたシーンで、私は涙した。
そんな私をレガット様は物珍しそうに見ていた。
「オペラより、そなたを見てる方が面白いようだ。」
レガット様は笑いながらそう言った。
「レガット様はオペラを見て、泣いたり、笑ったりせぬのですか?」
「オレは王子だ。
王位継承者ではなくても、王は泣いてはならぬのだ。」
「……それは間違っております。」
「なに?
オレの考えが間違いだと言うのか?」
「悲しい時に泣き、嬉しい時に笑うのが、人というものでございまする。
王は人民の悲しみや痛み、そして喜びを分かち合う者である、と私は思いまする。
レガット様、辛い時は泣いてもいいのでございます。
私は本音で笑い、話すレガット様が好きでございます。」
ん?
好きという表現は違うか?
と、思ったが、言ってしまったものはしょうがない。
「はっはっはっはっ!
こんな年下の娘に道理を説かれるとは思わなんだわ!
そうか、泣いても…よい…か…」
レガット様はそれ以降はオペラに集中しているようだった。
最終章で、少し目が潤んでいたのは、私の胸に仕舞っておこうと思った。
「はぁ…
良きオペラであった!」
オペラ座からの帰り道、レガット様は少し伸びをしながら言った。
「はい。
感動いたしました!」
私は微笑んだ。
「マリーナ、そなたを誘ったのは、兄上に対する当て付けであった…」
レガット様はおっしゃった。
「なんとなく気づいておりました…」
「しかし、今思う事は、今日のオペラをそなたと観れて良かったという事だ。
すまぬ…」
「いいえ、私はすまぬよりも、ありがとうの方が好きでございます。」
「ふっ…
そうか、ありがとう、マリーナ…」
そして、レガット様は花屋で紫のライラックの花束を買い、私に渡した。
花言葉は…
『恋の芽生え』
「レガット様、この花の花言葉を知っておるのですか…?」
「知っている、と言ったら?」
「では、受け取れませぬ。」
「なぜ?
兄上が好きなのか?」
「分かりませぬ。
私はこう見えて複雑なのでございまする。」
ベルゼのアホとシャルルダルク様の顔が浮かんだ。
シャルルダルク様を好きとも言えなかった。
「どうせ複雑ならば、これも受け取ってくれぬか、マリーナ。」
「お気持ちには…」
「よい、今は受け取ってくれるだけで…」
レガット様は私の手を取り口づけた。