あらすじ
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森下桃枝は、「小説の海」で活動する三流作家だった。 ペンネームは――甘桃。 プロフィール欄にはこう書いてある。 「甘い恋愛小説を書く作家です。アクセル全開、ブレーキ故障中」 代表作は『師匠を押し倒す十八の方法』。 読者コメント欄には、まともな感想が一つも集まらないほどの作品だった。 --- お見合いの日。 桃枝は目の前の男性へ、少し緊張しながら言った。 「私のペンネームは――甘桃です」 「あなたは?」 彼は淡々と答えた。 「桐生言彦です」 桃枝は頬を赤らめた。 「桐生さん、ご本名をそのままペンネームにしているなんて……すごいですね」 --- その後、彼女は彼のことを検索した。 澄川大学の歴史学教授。 著書は十冊以上。 どの作品も高い評価を受ける名著ばかり。 桃枝はその場で固まった。 一方、彼も彼女の作家ページを見た。 そこに並ぶ作品紹介やプロフィールは―― あまりにも刺激的だった。 彼はゆっくりと、シャツの第一ボタンを留め直した。 --- 彼は彼女にお茶を淹れてくれた。 川柳の作り方を教えてくれた。 彼女が文章を書けなくなった時には言った。 「それは語境が合っていない」 彼女が盗作疑惑をかけられた時には、ネット上で反撃して彼女を守った。 深夜、ホテルまで駆けつけた。 カードキーを開けられる恐怖に震える彼女を抱きしめて救い出した。 そして彼女を毛布で包み込み、繭のような姿にして言った。 「だったら、無駄にするな」 --- 彼は人前で堂々と言った。 「彼女は、私の恋人です」 義母の前では聞き返した。 「お義母さん?」 ベッドの上では、更新催促の電話を切って言った。 「桃桃、今は俺に集中して」 --- 一年後。 二人は四国の海岸をドライブしていた。 天空の鏡と呼ばれる浅瀬に、二人の姿が映っていた。 桃枝は彼の肩にもたれながら言った。 「次の章は、あなたが私にプロポーズする話にするね」 彼は三秒黙った。 そして答えた。 「その章は書かなくていい」 「直接、現実にしよう」閉じる
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創意工夫ありし者創意工夫ありし者2026-10-13 19:08ネオ・デビューネオ・デビュー2026-10-13 19:07作者のひとりごと作者のひとりごと
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愛する人の忠犬として十年耐えた私――死に戻り、恩人を間違えていたと気づいた。本当に愛していたのは、彼の弟だった
愛する人の忠犬として十年耐えた私――死に戻り、恩人を間違えていたと気づいた。本当に愛していたのは、彼の弟だった逸希の人生は、静臣のために捧げた十年間だった。 彼の代わりに刃を受け、命を懸けて守った。 言われたことには何でも従った。 十年間、彼の秘書として働き続けた。 そして十年間―― 彼のために尽くす“犬”だった。 彼の罪を代わりに背負った。 彼の代わりに殴られた。 彼のためなら、どんなことでもした。 なぜなら十八歳のあの日。 自分を救ってくれた人は、静臣だと思っていたから。 けれど後になって。 静臣は、たった一つの取引のために彼女を港区の会員制クラブの男へ差し出した。 静臣は高い場所から彼女を見下ろし、嫌悪を隠さず言った。 「お前が十年間ずっと俺のそばにいたと思うと……吐き気がする」 彼女は部屋へ連れて行かれ、壊れる寸前まで傷つけられた。 そして最後には、港へ捨てられた。 死ぬ直前。 逸希はぼんやりと見た。 あの人が必死に駆け寄り、泣きながら叫んでいる姿を。 けれど、もう彼女には力が残っていなかった。 もし、もう一度人生をやり直せるなら。 今度こそ、彼には出会いたくない。 そう願った。 十八歳。 あの夜、初めてバーで出会った日に戻った。 逸希は決めた。 もう恩は返した。 もう誰にも借りは作らない。 そう思い、彼女は自分を救ってくれた少年へ声をかけた。 しかし警備員が先に答えた。 「うちの坊ちゃまは、鷹宮雅臣様です」 少年は否定しなかった。 けれど後になって、彼女は知ることになる。 本当の恩人は、鷹宮家に隠されていた私生子。 “予備の心臓”として扱われていた少年―― 汐見澪だった。 二度目の人生で。 逸希は窓から彼の部屋へ入り、プログラムを教えた。 白粥と梅干しを持って行った。 手術の時には彼を守った。 母親の墓を移す時も、ずっとそばにいた。 合格発表の日の夜。 春雨が降る中。 電話の向こうから、あの声が聞こえた。 「帰りに梅干しを買ってきて」 逸希は笑った。 もう二度と。 この手を離さない。