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第68話 始まりの失敗①


※ヒロイン視点




 、あたしがやっていることが周りから見たら異常だってことはわかっている。婚約者のいる王子に纏わりつき、かと思えば次々と男達に声をかけて甘えてるなんて普通の常識では考えられない事だ。


 でもは、あたしだって普通の女の子だった。


 何も知らない、見た目がちょっと可愛くって純真無垢で天真爛漫な……そしてちょっとすごい守護精霊に守られているだけの普通の女の子。


 いつか白馬の王子様が現れて素敵な恋をして、そして幸せになることを夢見ていたどこにでもいる女の子のはずだった。



 でも……あたしは気付いてしまったのだ。あぁ、あたしは“普通”じゃないんだって。


 そこから、あたしの運命は狂ってしまったのだから。













 片田舎の男爵令嬢として生まれたあたしの人生は平凡になるはずだった。


 少し珍しいらしいピンク髪にピンクの瞳。小さい頃からとても可愛かったあたしはみんなに愛されていた。そんな平和な日常が当たり前の世界だったのだ。


 それからあたしの守護精霊がセイレーンだとわかり、初めて治癒の魔法を使った時なんかはさらにちやほやされるようにはなったけれど……それでもあたしはほんの少しすごいだけの普通の女の子のはずだったのだ。


 確かにあまりにちやほやされるから、ちょっとくらいは自惚れて調子に乗っていた事は認めるけれど……だってその時はまさか、あたしが周りから愛されるようになるようにセイレーンが魅了魔法を使っていたなんて思いもしなかったのだから。





 は、ジェスティード・ガイストだった。




 その時は本当に────本当に何も考えていなかったのだ。まさかこんな事になるなんて……。





 それまで片田舎の領地で過ごしていたあたしは、学園に来て初めて広い世界を見た気がしていた。


 そして偶然に出会った王子様のような人は本当に素敵な人だった。ケガをしていたから咄嗟にセイレーンにお願いして治癒魔法を使ったけれど同時に魅了魔法まで使っていたなんて知らなかったし、あんな何の変哲もないハンカチのために学園中を探してくれたと知った時は胸のときめきが止まらなくて運ひとりで運命を感じていたのだ。


 それからあたしとジェスティードは何度も偶然の出会いを繰り返し……あたしはいつの間にかジェスティードに恋をしてしまった。だって、まるで物語の主人公になったかのように出会うしジェスティードはとても優しかったから。


 そんな時に、ジェスティードが“王子様みたい”ではなく、本当にこの国の第二王子様だと知ってしまった。


 さらには、ジェスティードには公爵令嬢の婚約者がいた事も。もちろん王子様なんだからいてもおかしくはないのだが、あたしはそれがとてもショックだったのをよく覚えている。だってもう、その頃にはジェスティードの事を本気で愛していたから。


 ジェスティードの婚約者……公爵令嬢フィレンツェア・ブリュードの事はすぐにわかってしまった。ジェスティードが本物の王子様だとわかった頃からあたしに執拗な嫌がらせをしてきたからだ。きっとフィレンツェアもあたしのことをすでに知っているのだろうと思った。



 なんでも守護精霊がいない“加護無し”で、お金と権力を使って無理矢理ジェスティードの婚約者になったと言うとんでもない人らしい。あまりに傲慢な性格のせいもあってみんなからは「悪役令嬢」と呼ばれているとも聞いた。さらにジェスティードの身長の事を馬鹿にしたり、何か問題が起こると全部お金で解決しようとするとんでもない人なのだと。あんなに優しいジェスティードは悪役令嬢のせいで苦しんでいたのだと思ったら、そんな人が婚約者だなんて許せなかった。でもあたしは所詮片田舎の男爵令嬢で相手は公爵令嬢だ。爵位で勝てるわけがないし、もちろんフィレンツェアのように彼を支えるお金もない。ジェスティードが王太子になるためにはブリュード公爵家の後ろ盾が必要なのだと知って自分の無力さを思い知って思わずジェスティードに泣きながら謝った。


「ジェスティード様の事を愛しているのに、あたしはあなたのために何も出来ないのが悔しいんです……。こんな役立たずなあたしなんかいる意味があるのかって思ってしまって……。あなたのためならなんだってしてあげたいのに!」


「そんなこと言わないでくれ。ルルは側にいてくれるだけでいいんだ。それだけでどれだけ俺の心が救われるか……。あぁ、でも……それなら、俺のお願いを聞いてくれるかい?実は教会でボランティアを探しているんだ。こっそら寄付をしているんだけど人手が足りないって相談されていてね、俺の大切な人として参加してくれたら嬉しいな」


 その言葉にあたしは自分でも役に立てることがあるならと、喜んで承諾した。すでにその時には恋に盲目になりすぎていて、ちゃんとジェスティードの中身を見ていなかった気もする。


 あの頃は、ジェスティードはあたしのことを「フィレンツェアとは違って、君は小さくて守ってあげたくなる可愛らしい存在なんだ」と言われるだけで空も飛べそうなくらい嬉しかった。


 だから、せめてあたしに出来ることをしようと……側にいようと思ったのだ。例えフィレンツェア・ブリュードにどんな嫌がらせをされようとも耐えてみせると心に決めていた。


 それからフィレンツェアからのイジメはどんどん酷くなっていった。そしてジェスティードから“お願い”をされることも比例するかのように増えていったのである。フィレンツェアからどれだけ嫌がらせをされてもあたしは毎日のように教会に通い、傷付いた人を治癒していった。セイレーンにお願いして治癒魔法を使うとみんなが喜んでくれる。それに治癒魔法は珍しいからってまたみんながちやほやしてくれた。これも今から思えばセイレーンが魅了魔法を使っていたからだろうけれど、あたしは聖女のようだと崇められていたのだ。



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